最寄りの駅に着いた時、透は泣いていた。
無性に、蛍に――ホタルに会いたかった。まぼろしでもいい。この世ならざる者でもかまわない。
透が思い出さなければ、彼女はそばにいてくれたのだろうか。これからも、ずっと。
「ほたる……」
最後に一度だけでいい。
謝りたい。少女の笑顔が見たい。大人になった今はもう小さく感じるようになってしまったその手で、もう一度僕を外の世界に連れ出してほしい。
「蛍……ホタル……」
通りすがりの乗客に奇異なものを見る目で遠巻きにされながら改札を抜け、駐車場に向かう。今は車の運転などできそうになかったが、とにかく独りになりたかった。
空色の軽自動車のドアを開け運転席に乗り込むと、車内にこもった熱気が有毒ガスのように透を蝕む。窓を全開にしてハンドルに額を預ける。涙が止まらない。
その時、遠くで硝子の風鈴が鳴る音がしたような気がした。
――チリン、チリリン。
暑い車の中を、かすかに冷えた風が吹き抜ける。
「とおるは、なきむしだね」
少しひび割れたような、細くて高い声がした。
「そんなに、なかなくていいのに」
助手席に、栗色の髪の少女が座っていた。