透が大人に助けを求めたのは、彼女が流されてから二時間以上経った昼時だった。
蛍がいないということの意味を、幼い少年は理解できなかった。しばらく呆然として立ち尽くしたあと、もしかしたら蛍は藪の中か土手の向こう側に隠れて透を脅かそうとしているのかと思って、あちこち探しまわった。
けれど、いない。
先に帰ってしまったのかもしれない。急にお腹が空いたのかも。
……透を残して? 靴も履かずに?
どす黒い不安が小さな胸の奥にたまっていくが、どうしてもそれを認められなかった。透が祖母に蛍のことを相談したのは、祖母の作った素麺を食べ終えて麦茶を飲んでいる時だった。
『蛍、もう家に帰ってるよね? 僕、蛍を置いてきちゃったかな?』
祖母はその場で蛍の祖父母に電話をした。
蛍は帰っていなかった。
少女の体は、ほんの二百メートル下流で発見された。
魂の抜けた体だけが。
まだ幼い少女の葬式は悲嘆の声に覆われていた。
憔悴した父親、慟哭する母親、虚空を見つめたまま動かない祖父母。蛍の住んでいた地元から離れていたため参列者は少なかったが、その場にいる者はみな嗚咽していた。
祖母と母に連れられた透が入っていくと、蛍の母は半狂乱になって透につかみかかり、周囲に止められると泣きじゃくりながら透を罵りつづけた。