ホタルがいない。

 気が付いたのは新幹線の中だった。
『茉莉花』に置いてきてしまったのか? それとも、どこか途中ではぐれたのか。

 思い出せない。

 そもそも、ホタルは『いた』のか?
 古城市を出て最寄り駅の駐車場に車を停め新幹線に乗った時、そこにホタルはいたか? 僕はホタルの分も新幹線のチケットを購入したか?

 頭がぼんやりしていて、今朝のことなのにはっきりしない。

 新幹線の窓の外を瞬く間に都会のビル群が流れ去っていく。抗う術もなく過去へと引きずり込まれる透の意識のようだ。

 ホタルは――蛍は。

 蛍は国際結婚の夫婦から生まれたいわゆるハーフで、そのためか別の理由があるのかわからないが、地元の小学校で仲間はずれにされていた。
 透と同じく長期休暇の間のみ祖父母の家に遊びに来ていて、古城市で会える透だけが蛍の親友だ。

 蛍は可愛らしい女の子だった。
 いじめられているなんて思えない、活発で明るい少女。
 もしかしたら素直でいられる透の前でだけ、そんな姿を見せていたのかもしれない。けれど、透にとっては、引っ込み思案な自分を新しい世界に引っ張っていってくれる憧れの対象だったのだ。





 そんな蛍を。

 僕は。