「透くん……?」

 杏子に声をかけられて、透はふっと我に返った。

「大丈夫?」
「はい……」

 静かに立ち上がった杏子はカウンターから布巾を持ってきて、溶けたアイスクリームで汚れたテーブルをふいた。

「何か別のものを作りましょうか?」
「いえ……、すみません」

 クリームソーダのグラスを下げ、透の前に座り直りした杏子は唇の端を上げ笑顔を形作った。

「気にしないで。……わたし、ずっと透くんに謝りたかったの」
「謝る?」
「あなたのせいじゃないのに、あなたを責めてしまったこと。もしかしたら透くんは、そのことで自分を責めつづけているんじゃないかと思って」

 なんの話だ?
 僕が自分を責めつづけている? なぜ?

「わたしは幼いあなたを詰ることでしか、自分を保てなかった。本当にごめんなさい」

 何を?
 何を、自分はこのひとに詰られたのだろう?

「すべてはあの夏のせいなのよ。……苦しいくらい暑かった、あの夏の」

 あの、夏。





 十五年前の夏の一日。

 高原の街、古城市は七月としては珍しい真夏日だった。
 痛いほど烈しい太陽の光。ちらちらと輝きながら清らかな音を立てて流れる渓流。日射に焼けた河原の石ころ。

 丸い石から平らな石へ、鹿の子のように裸足で飛びまわるきみ。

『あっつい!』

 石の熱さに悲鳴を上げる少女。

『透もこっちにおいでよ』

 蛍が、笑った。





 透は思い出した。
 すべてを。