私の高校生活は、予想していたとおり、つまらなかった。まだ2週間しか経っていないけど。勉強は目新しいことがなく、むしろできない私たちに合わせて簡単になってしまったくらいに感じる。部活は、一応、文芸同好会に入ったけど、大した活動はなく、知っていたとおり私が続けてきた吹奏楽部は廃部になっていた。
「I can play the saxophone.」
え? サックス?
英語の授業で助動詞の復習をしていたとき、佐藤先生が何気なく使った例文。架空の話であれば、失礼ながらもっとメジャーな楽器やスポーツを出すだろう。なのに「saxophone 」とは。本当にできるからなのだろうか。
2回目の文芸同好会(と称したイラストクラブ)で、先輩方が新しく来た先生の話を始めた。
「智佳先生って着任式の時、吹部だったって言ってたよねー。」
「うん。でも陸部の顧問でしょ。ま、体力使うのはおんなじか。」
1年生にとっては今年来た先生も前からいる先生も授業で初めて会ったが、2・3年生は着任式で挨拶を聞いている。佐藤先生、本当に吹奏楽経験者だったのか。
私は描きかけの少女の絵を置いて、ルーズリーフを取り出した。
佐藤先生を訪ねる決心をした。なんて言ったって、青空高校唯一の吹奏楽経験者だから。知ってしまったからには仕方ない。吹奏楽をやっていた先生はこの学校で佐藤先生だけだ。私の夢がかなえられるのは、佐藤先生だけだと思った。
青空は人数が必要な吹奏楽部などないと知って入学はしたけど、やはり私は音楽が好きだ。部活をしたい。できれば経験者の先生に指導していただいて、音楽を楽しみたかった。とにかく、先生に話したかった。
絵を描くふりをして、ルーズリーフに佐藤先生に話したいことを書いては消し、書いては消して、言いたいことを固めて、意志を固めていった。
吹奏楽を諦めたくない、私の魂が動き出した。
「失礼します。」
同好会の時間が終わって、意を決して、職員室の扉を開いた。ゆっくりと丁寧に足を運んで、向き直った。
「佐藤先生に用事があって来ました!」
先生はびっくりしているみたいに手を振って立ち上がった。授業のときからリアクションが大きいと思っていたけど、職員室でも健在だった。
「ごめんね。びっくりしちゃって。私に用事がある人、初めてだから。」
きっとウソではないのだろう。英語の授業はすでに何回かあったが、いい先生って感じでもなく悪い先生って感じでもない。何か聞きに来る生徒も文句を言いに来る生徒もいない。
「わたし、小学校から吹奏楽やってて、先生も吹奏楽やってたって聞いたんです。顧問になってくれませんか?」
ルーズリーフに書きためた言葉とは違ったけど、言いたかったことが自然に言葉となって、出てきた。
やっと言えた。
私はずっと、吹奏楽がやりたかったのだ。
佐藤先生は、じっくり私の話を聞いてくれた。ずっと金管一筋で、トランペットがやりたいこと。楽器は持っていないこと。マーチもいいけど、洋楽アレンジやバラードも好きなこと。他の高校の定期演奏会に行っていること。いろいろな事情で青空高校に進学を決めたこと。
なんでも聞いてくれた。本当に顧問になってくれると思った。
でも、今日は保留されてしまった。仕方ない。先生は先生に慣れるのが一番大事だ。いま、新しい部活をおこしている余力はない。そんな感じだった。
「今日はありがとう。また音楽の話をしよう。」
先生は笑顔で私を見送ってくれた。
「I can play the saxophone.」
え? サックス?
英語の授業で助動詞の復習をしていたとき、佐藤先生が何気なく使った例文。架空の話であれば、失礼ながらもっとメジャーな楽器やスポーツを出すだろう。なのに「saxophone 」とは。本当にできるからなのだろうか。
2回目の文芸同好会(と称したイラストクラブ)で、先輩方が新しく来た先生の話を始めた。
「智佳先生って着任式の時、吹部だったって言ってたよねー。」
「うん。でも陸部の顧問でしょ。ま、体力使うのはおんなじか。」
1年生にとっては今年来た先生も前からいる先生も授業で初めて会ったが、2・3年生は着任式で挨拶を聞いている。佐藤先生、本当に吹奏楽経験者だったのか。
私は描きかけの少女の絵を置いて、ルーズリーフを取り出した。
佐藤先生を訪ねる決心をした。なんて言ったって、青空高校唯一の吹奏楽経験者だから。知ってしまったからには仕方ない。吹奏楽をやっていた先生はこの学校で佐藤先生だけだ。私の夢がかなえられるのは、佐藤先生だけだと思った。
青空は人数が必要な吹奏楽部などないと知って入学はしたけど、やはり私は音楽が好きだ。部活をしたい。できれば経験者の先生に指導していただいて、音楽を楽しみたかった。とにかく、先生に話したかった。
絵を描くふりをして、ルーズリーフに佐藤先生に話したいことを書いては消し、書いては消して、言いたいことを固めて、意志を固めていった。
吹奏楽を諦めたくない、私の魂が動き出した。
「失礼します。」
同好会の時間が終わって、意を決して、職員室の扉を開いた。ゆっくりと丁寧に足を運んで、向き直った。
「佐藤先生に用事があって来ました!」
先生はびっくりしているみたいに手を振って立ち上がった。授業のときからリアクションが大きいと思っていたけど、職員室でも健在だった。
「ごめんね。びっくりしちゃって。私に用事がある人、初めてだから。」
きっとウソではないのだろう。英語の授業はすでに何回かあったが、いい先生って感じでもなく悪い先生って感じでもない。何か聞きに来る生徒も文句を言いに来る生徒もいない。
「わたし、小学校から吹奏楽やってて、先生も吹奏楽やってたって聞いたんです。顧問になってくれませんか?」
ルーズリーフに書きためた言葉とは違ったけど、言いたかったことが自然に言葉となって、出てきた。
やっと言えた。
私はずっと、吹奏楽がやりたかったのだ。
佐藤先生は、じっくり私の話を聞いてくれた。ずっと金管一筋で、トランペットがやりたいこと。楽器は持っていないこと。マーチもいいけど、洋楽アレンジやバラードも好きなこと。他の高校の定期演奏会に行っていること。いろいろな事情で青空高校に進学を決めたこと。
なんでも聞いてくれた。本当に顧問になってくれると思った。
でも、今日は保留されてしまった。仕方ない。先生は先生に慣れるのが一番大事だ。いま、新しい部活をおこしている余力はない。そんな感じだった。
「今日はありがとう。また音楽の話をしよう。」
先生は笑顔で私を見送ってくれた。