赤川花菜(あかがわかな)

 私の高校生活ってなんなんだろう。

 同級生はみんな保育所のころから知っているイツメン。よくドラマにあるような恋物語が生まれるわけでもないだろうし、私が続けてきた吹奏楽部もない。合格通知とともに届いた宿題が早々に終わってから、新しく買ってもらったスマホでネットをあさってばかりだ。
 世の中には塾という所があるらしい。受験のために中学3年生や高校生が通うらしい。この町にはそんなところ、ない。いや、私には必要ない。
 中学生のころから何となく家計が苦しいのは察していた。大学を受験したい言ったところで、ダメと母に言わせてしまうのはもっと苦しい。ずっとここで、この町で生きていくと決めたのだ。決めたところで、何が今できるかわからない。学校の勉強に興味を持っているわけではないし、課外活動でできるようなこともない。
 まだ始まってもいない高校生活に絶望して、そして昼までベッドにうずくまっている。春休みになって二週間。ずっとこの調子だ。そして今日から4月、女子高生になるのだ。

 スマホに触れると11時過ぎだった。まだぎりぎり午前中。待ち受けの時計を隠してしまうくらい、ラインのメッセージがたまっている。

 「お誕生日おめでとう」
 「ようこそ15歳」
 「高校もよろしく」

 そうだ、今日は私の誕生日だ。4月うまれなのに早生まれ。みんな大人になっていくなか、私は次年度まで大人になれない。みんなの誕生日は学校で祝えるけど、私の誕生日は春休み中。かなりの確率で忘れられてきた。
 お祝いしてもらえるなんて初めてじゃないだろうか。みんながスマホを持つようになって、みんながラインを使うようになった。今日が私の誕生日であることが通知され、気づいた友達がメッセージをくれる。
 機械に縛られているとはいえ、これほどたくさんの人から祝われるとニヤリとしてしまう。
 だが、悲しいことに返信は一通で終わってしまう。みんなクラスラインの人だ。中学校までずっと一緒でも、他の高校に進んだ友達もいた。でも今日メッセージをくれたのは今のクラスの人だけだ。
 1番仲良しだった、同じ部活だった2人はそれぞれ支部大会、全国大会に進む強豪校に進学している。2人からはメッセージが来なかった。

 「みんなありがとう(o^^o) やっと15歳になれました。高校生もエンジョイしよう♪」

 10分くらい考えて、こんなメッセージを送った。もう高校生なのだ。中学校までの友達にもそれぞれの高校生活がある。そこに私はいない。友達だと思っているのは私だけなのかもしれない。
 ラインを閉じて、ツイッターを開く。日本は少し明るい4月1日を迎えている。
 もう11時半。ベッドから出てテレビをつける。

 今日はなんでもない春休みのある一日だ。ここから、何も変わらない一年が、ちょっと特別になる一年が始まる。