やったー!
今日から家庭学習期間。もう学校で勉強することはない。あとは1ヶ月、何事もなく過ごし、3月1日に卒業証書を受け取るだけだ。
やることといえば、自動車学校に通って、免許をとって、あとは吹奏楽部の同期と卒業旅行に行く。
「卒業旅行、どこ行く?」
「うーん、外国行ってみたいけど、お金がね。」
「でも遠くには行きたいよね。沖縄とか?」
「沖縄は今めっちゃ混むってお姉ちゃん言ったよ。」
「じゃあ、大阪とか?」
『いいね!』
一緒に通っている自動車学校の休憩室で、コーラを片手に、行き先の相談をした。働いたり進学したりすると、もうこうやって集まる機会はなくなってしまうのだろう。だからこそ楽しい思い出にしたいし、できれば遠くに行ってみたい。
でも、まだ高校生だから、親のお金で行くのだから、海外とか夢見たいなことは言えない。それは初ボーナスの夏休みにとっておこう。希望と現実の間をとって、大阪に行くことにした。
南風館では、多くの3年生が「卒業旅行」と称して、この家庭学習期間を旅行にあてていた。もちろん、受験がある人は勉強一筋だったけど、就職組は遠かれ近かれ、旅行に行っていた。
「お母さん、卒業旅行、大阪になったから。」
帰ってきて、母に報告した。我が家は甘やかされてるわけでも、お金に厳しいでもなく、必要であれば援助してくれる家庭だ。卒業旅行のことも年末から話していて、半分は就職後に返す約束で出してもらう話がついていた。
「大阪、なの?」
話がついていたはずなのに、母はすんなり認めてくれなかった。同期と話した通り、希望と現実の間をとって大阪になったからと経緯まで説明した。
「どうしても、大阪なの?」
やはり「大阪に行く」というところに引っかかっているようだ。
「お金の問題だったら、私が返す分、増やしてもいいからさ。行かせてもらえない?」
きっとお金がかかることを心配しているのだろうと思った。ざっと計算したら私の手取りの半分くらいかかる。両親に返すのはお正月までだから、仮に全額返すことになっても、まあ、なんとかなるだろう。
「お金はいいの。本当に『今』『大阪に』行かないと、ダメ?」
「もうみんなと決めちゃって、予約も始めてるから…。」
「ちょっと、お父さんと話させてちょうだい。」
結論、私は卒業旅行に行くことができた。後から聞いた話では、父も母と同じくらい「大阪に行く」という部分を気にしていた。
でも「今行かないと、もう行けなくなる」と、最終的には認めてくれた。
ビビビー!
ついに出発という時。飛行機の手荷物検査で引っかかってしまった。液体が大量に入っているから、検査させてほしいとのことだった。
まったく記憶になかった。ペットボトルは飲みきって捨てたし、化粧水は預けた荷物の中のはず。リュックを開けると、見覚えのない箱入りのマスクと消毒液が入っていた。
きっと母だ。いままでだって、遠出する時に「これもあったら助かるんじゃない?」っていうものをカバンに忍ばせることがあった。
「祐美のお母さん、心配性だね。」
「うん、ははは」と笑ってごまかす。まったく、母のせいでとんだ恥をかいてしまった。なんとか手荷物検査は通り抜けたけど、箱入りのマスクと消毒液は大きくてかさばり、旅行中ずっと私の心を狭くしていた。
どうせ、数百円で買えるものだし、と思い、帰りの飛行機に乗る前に捨ててしまった。
帰って母にそう伝えると、何も言わず、ただ青くなっていくのを感じた。
看護師の母が、なぜそんなことをしたのか。今思えば、いたいほどわかるのに、私は世間知らずで、浅はかだった。
今日から家庭学習期間。もう学校で勉強することはない。あとは1ヶ月、何事もなく過ごし、3月1日に卒業証書を受け取るだけだ。
やることといえば、自動車学校に通って、免許をとって、あとは吹奏楽部の同期と卒業旅行に行く。
「卒業旅行、どこ行く?」
「うーん、外国行ってみたいけど、お金がね。」
「でも遠くには行きたいよね。沖縄とか?」
「沖縄は今めっちゃ混むってお姉ちゃん言ったよ。」
「じゃあ、大阪とか?」
『いいね!』
一緒に通っている自動車学校の休憩室で、コーラを片手に、行き先の相談をした。働いたり進学したりすると、もうこうやって集まる機会はなくなってしまうのだろう。だからこそ楽しい思い出にしたいし、できれば遠くに行ってみたい。
でも、まだ高校生だから、親のお金で行くのだから、海外とか夢見たいなことは言えない。それは初ボーナスの夏休みにとっておこう。希望と現実の間をとって、大阪に行くことにした。
南風館では、多くの3年生が「卒業旅行」と称して、この家庭学習期間を旅行にあてていた。もちろん、受験がある人は勉強一筋だったけど、就職組は遠かれ近かれ、旅行に行っていた。
「お母さん、卒業旅行、大阪になったから。」
帰ってきて、母に報告した。我が家は甘やかされてるわけでも、お金に厳しいでもなく、必要であれば援助してくれる家庭だ。卒業旅行のことも年末から話していて、半分は就職後に返す約束で出してもらう話がついていた。
「大阪、なの?」
話がついていたはずなのに、母はすんなり認めてくれなかった。同期と話した通り、希望と現実の間をとって大阪になったからと経緯まで説明した。
「どうしても、大阪なの?」
やはり「大阪に行く」というところに引っかかっているようだ。
「お金の問題だったら、私が返す分、増やしてもいいからさ。行かせてもらえない?」
きっとお金がかかることを心配しているのだろうと思った。ざっと計算したら私の手取りの半分くらいかかる。両親に返すのはお正月までだから、仮に全額返すことになっても、まあ、なんとかなるだろう。
「お金はいいの。本当に『今』『大阪に』行かないと、ダメ?」
「もうみんなと決めちゃって、予約も始めてるから…。」
「ちょっと、お父さんと話させてちょうだい。」
結論、私は卒業旅行に行くことができた。後から聞いた話では、父も母と同じくらい「大阪に行く」という部分を気にしていた。
でも「今行かないと、もう行けなくなる」と、最終的には認めてくれた。
ビビビー!
ついに出発という時。飛行機の手荷物検査で引っかかってしまった。液体が大量に入っているから、検査させてほしいとのことだった。
まったく記憶になかった。ペットボトルは飲みきって捨てたし、化粧水は預けた荷物の中のはず。リュックを開けると、見覚えのない箱入りのマスクと消毒液が入っていた。
きっと母だ。いままでだって、遠出する時に「これもあったら助かるんじゃない?」っていうものをカバンに忍ばせることがあった。
「祐美のお母さん、心配性だね。」
「うん、ははは」と笑ってごまかす。まったく、母のせいでとんだ恥をかいてしまった。なんとか手荷物検査は通り抜けたけど、箱入りのマスクと消毒液は大きくてかさばり、旅行中ずっと私の心を狭くしていた。
どうせ、数百円で買えるものだし、と思い、帰りの飛行機に乗る前に捨ててしまった。
帰って母にそう伝えると、何も言わず、ただ青くなっていくのを感じた。
看護師の母が、なぜそんなことをしたのか。今思えば、いたいほどわかるのに、私は世間知らずで、浅はかだった。