実は部活をやめてしまった。
4月に停学をくらってから、部活に居場所がなかったけど、なんとか祐美さんが仲間にしてくれた。祐美さんが引退して、いやコンクールでやめてしまって、そこからはやる気が出せずにいた。
私は何のために部活をやっていたのかな?
うまくなりたかったんじゃないのかな?
もっともっと、上を目指したくなかったのかな?
…。
いろいろと思うところあったけど、祐美さんがいなくなって、託された演奏会も終わったとき、もう私を引き留めるものはなくなっていた。「先生、部活やめます」と軽い感じで退部届をもらい、何も引き留められず、やめた。
私ってその程度だったんだなぁと思った。同級生も先生も引き留めないって、そして自分も。誰からも必要とされたないんだなぁって思った。私自身すら、必要だと思っていないのかもしれない。
「あ」
何気なく、職員室前を通ると、祐美さんがいた。背筋がすっと伸びる。あいさつをしようかと思ったけど、河野先生とお話し中だったから、静かにしていることにした。
「先生、私が成し遂げたことって何ですか?」
「いやいや、それは自分で『認めた』ことでしょ。」
「私、認めてあげられるようなこと、思い当たらないんですよね。」
何か、深刻な、ただならぬ雰囲気を感じた。でも、ここまで聞いてしまって、このまま逃げるのもヘンな気がした。
「おまえは、いっぱいあるじゃないか。部活も、勉強も、進路も。」
「成績は悪くないし、むしろ良かったと思います。でも、『頑張った〜』って達成感がないんですよ。」
聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする。
祐美さんが頑張っていない訳ない。私がここまで部活ができたのは、間違いなく祐美さんのおかげだ。現に、祐美さんがいない部活を、私は頑張れなかった。あんなに暗い顔して話すようなことじゃない。私はすごく感謝しているのに。
「あ」
また声を出してしまった。
感謝。
そういえば、私は祐美さんに感謝の気持ちを伝えただろうか? コンクールは祐美さんに感謝されっぱなし。祐美さんがやめるときは何も言えなかった。引退式は会えなかった。
もう祐美さんは卒業してしまう。今はテストに向かって一生懸命で、先生に聞きに行ってもいる。そんな祐美さんを邪魔できない。このまま、胸にしまったほうがいいのかな?
「おまえは自分に厳しいな。おまえに救われたやつは、確実にいるぞ。」
一瞬、河野先生と目があった気がした。「まずい」と思い、通りがかりを装って先生と祐美さんに背中を向けた。
「いいか。おまえが大事だと思う人を救えたなら、サイコーじゃないか? それは『やり遂げた』とは言えないか? それでも思い当たらないなら、あと1週間、全力で思い出せ。この3年間何をしたか。周りの人をどう変えたか。自分はどう感じたか。私はいい英作文を書いてほしい訳じゃない。そうやって高校生活を振り返ってほしい。あとな…。」
先生は少しギアを上げて、付け加えた。
「あとな、思った時に気持ちを伝えられないのが、人間、一番辛いんだ。『ありがとう』『ごめんね』『さようなら』。言える時に言っておかないとな。」
私はその場を去った。
もしかしたら、まさに今。生まれて初めて「言えない」という経験をしているかもしれない。「ありがとう」と祐美さんに伝える機会を逸してしまった。でも、言わないと、河野先生が言うとおり、ずっと後悔が残る。
私はこの日から手紙を書き進めた。渡すのは卒業式。本当は部活で集まって3年生のお祝いをするけど、やめた私は集まれない。祐美さんに会える時間は少しかもしれない。
だから、思いを確実に伝えられるように、渡せば伝わるように、少しずつ書き進めた。
もうすぐ3年生になって、部活もやめた私が何を頑張れるかわからない。でも、私が高校生活を振り返るとき、一番頑張ったといえるのは2年生の部活だろう。そんな輝きをくれたのは祐美さんだ。
ちゃんと伝えて、前に進まなきゃ。
4月に停学をくらってから、部活に居場所がなかったけど、なんとか祐美さんが仲間にしてくれた。祐美さんが引退して、いやコンクールでやめてしまって、そこからはやる気が出せずにいた。
私は何のために部活をやっていたのかな?
うまくなりたかったんじゃないのかな?
もっともっと、上を目指したくなかったのかな?
…。
いろいろと思うところあったけど、祐美さんがいなくなって、託された演奏会も終わったとき、もう私を引き留めるものはなくなっていた。「先生、部活やめます」と軽い感じで退部届をもらい、何も引き留められず、やめた。
私ってその程度だったんだなぁと思った。同級生も先生も引き留めないって、そして自分も。誰からも必要とされたないんだなぁって思った。私自身すら、必要だと思っていないのかもしれない。
「あ」
何気なく、職員室前を通ると、祐美さんがいた。背筋がすっと伸びる。あいさつをしようかと思ったけど、河野先生とお話し中だったから、静かにしていることにした。
「先生、私が成し遂げたことって何ですか?」
「いやいや、それは自分で『認めた』ことでしょ。」
「私、認めてあげられるようなこと、思い当たらないんですよね。」
何か、深刻な、ただならぬ雰囲気を感じた。でも、ここまで聞いてしまって、このまま逃げるのもヘンな気がした。
「おまえは、いっぱいあるじゃないか。部活も、勉強も、進路も。」
「成績は悪くないし、むしろ良かったと思います。でも、『頑張った〜』って達成感がないんですよ。」
聞いてはいけないことを聞いてしまった気がする。
祐美さんが頑張っていない訳ない。私がここまで部活ができたのは、間違いなく祐美さんのおかげだ。現に、祐美さんがいない部活を、私は頑張れなかった。あんなに暗い顔して話すようなことじゃない。私はすごく感謝しているのに。
「あ」
また声を出してしまった。
感謝。
そういえば、私は祐美さんに感謝の気持ちを伝えただろうか? コンクールは祐美さんに感謝されっぱなし。祐美さんがやめるときは何も言えなかった。引退式は会えなかった。
もう祐美さんは卒業してしまう。今はテストに向かって一生懸命で、先生に聞きに行ってもいる。そんな祐美さんを邪魔できない。このまま、胸にしまったほうがいいのかな?
「おまえは自分に厳しいな。おまえに救われたやつは、確実にいるぞ。」
一瞬、河野先生と目があった気がした。「まずい」と思い、通りがかりを装って先生と祐美さんに背中を向けた。
「いいか。おまえが大事だと思う人を救えたなら、サイコーじゃないか? それは『やり遂げた』とは言えないか? それでも思い当たらないなら、あと1週間、全力で思い出せ。この3年間何をしたか。周りの人をどう変えたか。自分はどう感じたか。私はいい英作文を書いてほしい訳じゃない。そうやって高校生活を振り返ってほしい。あとな…。」
先生は少しギアを上げて、付け加えた。
「あとな、思った時に気持ちを伝えられないのが、人間、一番辛いんだ。『ありがとう』『ごめんね』『さようなら』。言える時に言っておかないとな。」
私はその場を去った。
もしかしたら、まさに今。生まれて初めて「言えない」という経験をしているかもしれない。「ありがとう」と祐美さんに伝える機会を逸してしまった。でも、言わないと、河野先生が言うとおり、ずっと後悔が残る。
私はこの日から手紙を書き進めた。渡すのは卒業式。本当は部活で集まって3年生のお祝いをするけど、やめた私は集まれない。祐美さんに会える時間は少しかもしれない。
だから、思いを確実に伝えられるように、渡せば伝わるように、少しずつ書き進めた。
もうすぐ3年生になって、部活もやめた私が何を頑張れるかわからない。でも、私が高校生活を振り返るとき、一番頑張ったといえるのは2年生の部活だろう。そんな輝きをくれたのは祐美さんだ。
ちゃんと伝えて、前に進まなきゃ。