原田祐美(はらだゆみ)

 4月1日。
 今日から高校3年生。
 南風館で過ごす最後の一年が始まる。

 就職希望の私にとって今年は学生生活最後の一年だ。進路を決めたいという思いは人並みにはある。それ以上にこの高校生活をまっとうしたい。最後の部活、後輩たちと最高の音楽がしたい。万年地区予選落ちの南風館で、全国大会とか夢みたいなことは言わない。でも、今の仲間と、後輩たちと、今できる最大限の努力をして、心を一つにして卒業したい。
 人並な一年の抱負を心の中でつぶやき、私は部活に向かった。
 昼まで部活の練習をして、午後からは自主練をして友達と自販機でジュースを買って帰ってくる予定だ。
 バスに乗って40分。市内をぐるっと回って学校に向かう。途中で乗ってくる友達と談笑し、食べそびれた朝ごはんをかじりながら、学校へと運ばれる。

 「祐美、うまそうじゃん。ひと口ちょーだい!」
 500mlのコーヒー牛乳にストローをさして、朝ごはんの足しにしていると、駅から乗ってきた圭子(けいこ)が回し飲みを強要してきた。
 バスという公共交通機関でごはんを食べる。まして、ストローで飲み物を飲むのは、決してお行儀がよいとは言えない。ただ、これが私たちの日常で、こぼさなければいいかな、と思っている。回し飲みも良くはないが、「吹奏楽」の世界では、直接口をつけるマウスピースやリードを共用することは珍しくない。私はお返しにコーラを一口いただいた。

 さて、今日からは新1年生も見学に来る。たくさん1年生を入れて、1人でも多い部員で、夏に向けて、走り出したい。勉強だ進路だというのは、すべてやり切ってからだ、と勝手に決めつけてみる。

 なんでもない。普通の春休みだった。