職員会議を数回経て、なんか難しいけど、もう決まっていることに「うん」とうなずくことを覚えた頃、夏の学校祭に向けての企画が職員会議で全てとおった。
 私が高校生活で経験して来たような、クラスの中でイケてる奴らが盛り上がって、そうでもない人たちはどう生き延びるかを模索する、というような学校祭ではないらしいことを理解した。
 クラスの中でアレもコレもやり、部活も有志も、と、息つく間もない学校祭となりそうだ。

 この職員会議のあと「教員バンドをやりましょうよ」と話があがるのは必然だった。全校生徒50人に対して、有志発表の時間は2時間。どう考えても余る時間設定だった。

 「佐藤先生、サックスできるんですよね? 村田先生にベースお願いして、僕はボーカルかな? どうです? なにか1曲?」

 イメージどおりというか、真っ先に声をかけて来たのは体育の飯田先生だった。元気いっぱい。本当に歌えるのか?

 「それなら、うちの佳子(よしこ)も、ギター弾かせて引っ張りましょうよ。文化委員の見せ場にしてやりましょう。私はタンバリンで。」

 国語で2年生担任の田村先生も参戦して来た。いまだに、この、先生方のコントのようなノリの良さにはついていけない。

 あっけにとられて、え、え、と戸惑っていると「ちょっと」と1年生担任の今野先生に相談室に呼び出された。

 「有志の件なんだけどさ。」

 さっきまでほかの先生方が冗談まじりに話していたことを、真剣に話し始めた。

 「うちの赤川に吹奏楽をやらせてくれない?」

 予想通りというか、自然な流れで、そのような提案をうけた。実は有志発表自体、花菜さんのように、本当は頑張りたいことがあるけど、普段の学校生活では無理という生徒に活躍の場を与えたい、という目的で始めたらしい。今野先生は有志の話が出たときから(たくら)んでいて、決定を待って私に打診して来たらしい。
 結局、花菜さんなら、私のところに必ず来るだろう、と意見が一致して、来た時には全力でサポートする、ということになった。

 「その時は僕もドラムで参戦するよ!」

 帰宅して、今日も日本酒を開けることにした。スーパーに寄ってちょっといいのを買って来たのだ。なんと4合ビンで2,000円!
 何かできるかもしれない。花菜さんと音楽ができるかもしれない。それだけで私の心はウキウキしていた。
 正直、仕事の方は、授業もそれ以外の仕事もどれだけできてて、どれだけできてないのか、よくわからず、手応えというものを感じられないままお給料をもらっていた。でも、吹奏楽なら、やりきった手応えを得られるかもしれない。なにより楽しめると思う。花菜さんの夢を少しでも叶えられるかもしれない。

 買ってきた4合ビンはいつの間にか半分になっていた。残りは本番が終わってから飲もう、と冷蔵庫にしまった。

 「次のおつまみはマグロにしようかな?」

 その日見た夢は、花菜さんと私の高校時代の部活で、合奏を受けている夢だった。