5月になって初めて外の空気を吸った。風薫る5月の空気。肺の底までめいっぱい吸って、この春とも夏とも言い難い、5月の空気を味わっていた。せっかくの10連休だけど、あまり外には出たくなかった。
幸いなのかわが家は休日に出かける習慣がない。いや、わが家にないのではなく、私にはその選択肢がないのだ。
母親はいつもどこかに行っている。父親はいない。
学校が休みの日は、近くのおばあちゃん家に行くけど、車を運転させるわけにはいかない年頃で、私の移動手段はママチャリオンリーだ。
出かける予定もなく、出かける意味もなく。他の吹奏楽部員に見つかるのも嫌な私がなぜ外の空気を吸っているのか。祐美さんに呼び出されたからだ。
同じパートの祐美さん。一番迷惑を掛けたくなかった先輩の一番大切な時間を奪ってしまったのは私だ。私が停学なんかにならなければ、いじめられることも、部活禁止になることもなかったのに。
どんな風に怒られるのかひと通りシミュレーションして、スーパーのフードコートに向かった。
先に着いたのは私のようだった。先客は二人しかおらず、おじいさんとふんわりとした雰囲気のお姉さんだけだった。祐美さんのようなキリリとした美少女の姿はない。
「明希、ひさしぶり! 」
聞きなれた芯のある声をかけてきたのはふんわりとした雰囲気のお姉さんだった。いつものキリリとした副部長の顔からは想像できない、素敵な女子高生だった。
「ごめんね、休日に呼び出して。ってか、休みの日に会うの初めてだよね。」
祐美さんとの「デート」が、はじまった。
祐美さんが一貫して言うのは「部活に来てくれ」「一緒にコンクールに出よう」だった。
今は、停学で迷惑をかけたことが申し訳ない、という気持ちでいっぱいいっぱい。きっと、先輩や同期は「なんてことしてくれてんだ」「明希なんか居ない方がいい」と思っているのだろうと思っていた。
周りからどんな目で見られるのかが不安で、非難の視線を浴びるのが怖くて、仕方なかった。だから、祐美さんがこんなふうに言ってくれるのは、正直、想定外だった。
もちろん、何もなければ部活が私の高校生活で、私のアイデンティティだから、部活に出ることも、コンクールを目指すことも、当然することだった。でも、今はそれどころではない。
「あのさ! 明希!」
ちょっとどころではなく、祐美さんの声色が変わった。
幸いなのかわが家は休日に出かける習慣がない。いや、わが家にないのではなく、私にはその選択肢がないのだ。
母親はいつもどこかに行っている。父親はいない。
学校が休みの日は、近くのおばあちゃん家に行くけど、車を運転させるわけにはいかない年頃で、私の移動手段はママチャリオンリーだ。
出かける予定もなく、出かける意味もなく。他の吹奏楽部員に見つかるのも嫌な私がなぜ外の空気を吸っているのか。祐美さんに呼び出されたからだ。
同じパートの祐美さん。一番迷惑を掛けたくなかった先輩の一番大切な時間を奪ってしまったのは私だ。私が停学なんかにならなければ、いじめられることも、部活禁止になることもなかったのに。
どんな風に怒られるのかひと通りシミュレーションして、スーパーのフードコートに向かった。
先に着いたのは私のようだった。先客は二人しかおらず、おじいさんとふんわりとした雰囲気のお姉さんだけだった。祐美さんのようなキリリとした美少女の姿はない。
「明希、ひさしぶり! 」
聞きなれた芯のある声をかけてきたのはふんわりとした雰囲気のお姉さんだった。いつものキリリとした副部長の顔からは想像できない、素敵な女子高生だった。
「ごめんね、休日に呼び出して。ってか、休みの日に会うの初めてだよね。」
祐美さんとの「デート」が、はじまった。
祐美さんが一貫して言うのは「部活に来てくれ」「一緒にコンクールに出よう」だった。
今は、停学で迷惑をかけたことが申し訳ない、という気持ちでいっぱいいっぱい。きっと、先輩や同期は「なんてことしてくれてんだ」「明希なんか居ない方がいい」と思っているのだろうと思っていた。
周りからどんな目で見られるのかが不安で、非難の視線を浴びるのが怖くて、仕方なかった。だから、祐美さんがこんなふうに言ってくれるのは、正直、想定外だった。
もちろん、何もなければ部活が私の高校生活で、私のアイデンティティだから、部活に出ることも、コンクールを目指すことも、当然することだった。でも、今はそれどころではない。
「あのさ! 明希!」
ちょっとどころではなく、祐美さんの声色が変わった。