ゴールデンウイーク。
北海道ではまだ桜も咲かないこの時期を「夏」と呼んでいいのか分からないが、たしかに私の夏は始まっている。高校3年生。高校生最後の夏。就職後は仕事に専念するからしばらく吹奏楽とはお別れだ。しかも私の楽器はファゴット。そこそこの楽器でも車が買えるような値段だ。自分で買えるようになる日は来るのやら。
10連休初日。今日から少年自然の家でびっちり合宿の予定だった。いつもなら初心者の1年生をビシバシ鍛えて6月のミニコンサートそして7月のコンクールに向けてスパルタ練習を重ねるところだ。私だって、本当なら、やっとファゴットの後輩が入って、後継者育成連休となるはずだった。
明希が停学くらって、部活停止になって、正直まいった。1年生は例年の半分しか入部していない。影の薄いファゴットにまわせる人員などいない。ただ、うちの部活はそれどころではない危機に立たされていた。
明希は停学以後、一度も部活に来ていない。顧問の話だとラインを退会させられて、精神的にまいっているとのことだった。
部内は停学女など退部させるべきだという2年生中心のグループと、彼女が戻ってこられる環境を整えるべきだという私も含めた部の幹部グループ、そして新入部員の獲得にあらゆる手を尽くすべきという3年生中心のグループに対立してしまった。
このごたごたのせいで、予定されていた合宿は中止になった。私は明希に何度もラインを送ったけど、未だ部活には来られていない。顧問は合宿だけではなく、学校での練習も中止とした。正直、これでは6月の演奏会も7月のコンクールもあやしい。
部活中止中、私の楽器、ファゴットも含めた木管低音パートではライン電話でパート練習を試みていた。
『ブ、ぷ、ピ、ぽ』
普通の練習ならなんて事のない、メトロノームを合わせる作業に10分以上かかっている。もう、メトロノームはあきらめた。おとなしくロングトーンを始めたが、無理だった。タイミングが全く合わない。
「え、これ合ってないの?」
「いや、接続の問題だとおm…」
「思う。」と言おうとしたパートリーダー由貴の画像が止まった。今日は月末。通信制限がかかり始めているのだ。私は、申し訳ないが通話を中止した。
「やっぱ、電話で合わせるの難しいから、部活始まったら一緒に練習しよう。」
パートラインにメッセージを送り、スマホを置いた。自己練習に入ろうと思ったけど、なかなか入れない。電話での練習はいつも以上に疲れた。身体ではなく、心が。
私は、音を出した時、みんなの音と重なっている感覚を身体中で感じるのが大好きだ。電話だと全くそれがない。自分は音を出している。由貴も音を出している。でもそこに音楽はない。それが空しくて、悲しくて、相棒のファゴットをながめながら昼のサイレンを聞いていた。
北海道ではまだ桜も咲かないこの時期を「夏」と呼んでいいのか分からないが、たしかに私の夏は始まっている。高校3年生。高校生最後の夏。就職後は仕事に専念するからしばらく吹奏楽とはお別れだ。しかも私の楽器はファゴット。そこそこの楽器でも車が買えるような値段だ。自分で買えるようになる日は来るのやら。
10連休初日。今日から少年自然の家でびっちり合宿の予定だった。いつもなら初心者の1年生をビシバシ鍛えて6月のミニコンサートそして7月のコンクールに向けてスパルタ練習を重ねるところだ。私だって、本当なら、やっとファゴットの後輩が入って、後継者育成連休となるはずだった。
明希が停学くらって、部活停止になって、正直まいった。1年生は例年の半分しか入部していない。影の薄いファゴットにまわせる人員などいない。ただ、うちの部活はそれどころではない危機に立たされていた。
明希は停学以後、一度も部活に来ていない。顧問の話だとラインを退会させられて、精神的にまいっているとのことだった。
部内は停学女など退部させるべきだという2年生中心のグループと、彼女が戻ってこられる環境を整えるべきだという私も含めた部の幹部グループ、そして新入部員の獲得にあらゆる手を尽くすべきという3年生中心のグループに対立してしまった。
このごたごたのせいで、予定されていた合宿は中止になった。私は明希に何度もラインを送ったけど、未だ部活には来られていない。顧問は合宿だけではなく、学校での練習も中止とした。正直、これでは6月の演奏会も7月のコンクールもあやしい。
部活中止中、私の楽器、ファゴットも含めた木管低音パートではライン電話でパート練習を試みていた。
『ブ、ぷ、ピ、ぽ』
普通の練習ならなんて事のない、メトロノームを合わせる作業に10分以上かかっている。もう、メトロノームはあきらめた。おとなしくロングトーンを始めたが、無理だった。タイミングが全く合わない。
「え、これ合ってないの?」
「いや、接続の問題だとおm…」
「思う。」と言おうとしたパートリーダー由貴の画像が止まった。今日は月末。通信制限がかかり始めているのだ。私は、申し訳ないが通話を中止した。
「やっぱ、電話で合わせるの難しいから、部活始まったら一緒に練習しよう。」
パートラインにメッセージを送り、スマホを置いた。自己練習に入ろうと思ったけど、なかなか入れない。電話での練習はいつも以上に疲れた。身体ではなく、心が。
私は、音を出した時、みんなの音と重なっている感覚を身体中で感じるのが大好きだ。電話だと全くそれがない。自分は音を出している。由貴も音を出している。でもそこに音楽はない。それが空しくて、悲しくて、相棒のファゴットをながめながら昼のサイレンを聞いていた。