彩~清か色の日常、言葉のリボン

(ゆうside)

ナギサの提案で今日はスタバに行くことになった。

春の女の子には断られたけれど、また行ければ良いな。
そう考えながら歩いていると、まさしく彼女を見かけたのだ。

ナギサが大きく手を振って彼女を呼んでいる。

すると、彼女はこちらを振り返った。
少し困ったように眉毛を曲げていて、手で猫を抱えていた。

「みんな、この猫ちゃん……」

彼女のところまで近寄ってみると、抱えていた猫の足が切れていた。
なるほど、血がにじんでいる。

春の女の子はみんなに言った。

「動物病院知らない? 連れていきたいよ」

みんな揃って悩みだしてしまった。
当然と言えば当然なのだが、通学のルート以外あまり歩いたことがないのだ。

「放っておいても死なないと思う」

「はいはい、無視ね」

確かにシュンの言う通り死なないとは思うけれど。
ナギサの発言通り、みんなが猫を助けたい方向になっている。

「そこのコンビニに尋ねよう」

僕はこう提案した。
春の女の子の意見をないがしろにできないと思ったからだ。

商店街には動物病院はないものの、今歩いている道から見える十字路を曲がれば良いらしい。
みんなして少し早歩きに歩く。
猫はなぜか逃げ出さずにじっと抱きかかえられている。
まるで籠に乗る姫様か赤ん坊のように見える。

その道中、春の女の子が心配そうな声を漏らす。

「どうしよう……。
猫ちゃん大丈夫かなあ」

ナギサは感心したように声をかけていた。

「とても軽い切り傷だよね、大丈夫だよ。
でも、あの程度で心配するなんて、君は優しいんだ」

彼女は照れてしまったのか、恥ずかしそうに顔をうつむいてしまった。

 ・・・

動物病院は個人がやっている小さな病院だった。
なんだか建物が犬小屋の様に見えたのは気のせいだろうか。

施術はすぐに行われて、猫の足にはあっという間に包帯が巻かれた。

春の女の子は胸を撫で下ろした。
猫のところに走って行って抱きしめた。

「よかったあ……」

彼女の表情にみんなの口角が上がる。
嬉しいという気持ちをみんなで味わうことができた。
それは、例えば紅茶を飲んでひと息つくような不思議な安堵を感じさせる。

それから、大事な問題をひとつ残していたことに気が付いた。
施術代だ。

「わ、わたし全部出したいっ」

春の女の子はこう切り出した。
いつの間にか財布を出していて、だいぶ急いだ口調になっている。
たぶん、彼女は余裕なお金を持っている、というよりも後先を考えていない様子を感じた。
みんなで割りきって払おうと思ったのだが、どうしようか。

「いやいや、春音さんそれは申し訳ないです」

アヤカが話の歩調を合わせてくれた。
じゃあ端数だけ出してもらおうよ、と僕は切り出すことができた。

スタバに行く代金が猫のために使われたが、みんな文句を言わなかった。

動物病院の外で猫を離してあげた。
猫ちゃんはお礼を言ったかどうか、にゃ~ とだけ鳴いて走っていった。

すると、春の女の子はにかんだまま僕の方を見てきた。

「あの時、コンビニの提案をしてくれなかったら……」

……ありがとう、君こそ優しいんだね。

そう言われた僕は恥ずかしくなった。
照れてしまうから、心が掴まれるような気がするから、やめて欲しい。

「生きているから、素晴らしいんだよ……」

彼女はこうつぶやいた。

それはただのつぶやきだったのかもしれない。
だけど、僕には言葉の重みがあるように感じたんだ。

まるで、春の女の子が命の重さを感じさせるような存在だということに……。

 ・・・

次の日、僕は<おやつタイム>のみんなと放課後に残っていた。

いつも通りにたわいもない話をしていると、教室に向かって廊下を走ってくる音が聞こえてきた。

「みんな、昨日はありがとうっ」

春の女の子は教室のドアの前で息を切らしながら立ち止まった。
なんと、<フレンドリィ マート>で買ってきた色んな種類のおやつを片手に持っている。

まったく優しい子なんだなあって納得して、みんな笑ってしまった。
これが、猫が誘い込んだ縁なのかもしれない。

「春ちゃんも入ってみんなで食べよう!」

誰ともなくそんなことを言った。