学校近くにある街角をふたり揃って歩く。

青空は高く澄み渡っていて、カスミソウはきれいに咲き誇っている。
3月の爽やかな一日だ。

「まるで海のようだねえ、凪いでいる感じがする」

隣を歩く春ちゃんは不思議なコメントを言った。
いつもの変わった感性に、心が和んでくる。

今日の彼女はワンピースにフランネルのシャツを羽織っている。

僕たちは駅の近くにある公園でベンチに座った。
視界の正面には桜の木が咲いている。

「あ、ほらスズメがいるよ」

春ちゃんは慌てて反応するも、カメラの電源は落としている。
起動している間に、どこかに飛んで行ってしまった。

やがて、会話もなくなってしまったのか、ふたりで静かな時間を過ごしている。
彼女は退屈したのだろうか、足をふらふら揺らしている。
そして、ある一言を告げるのだった。

「私の家に行こうよ、ついて来てほしいな」

彼女は急に立ち上がる。
それは、はじめて見せる我儘だった。

ふたりの間に爽やかなそよ風が吹いていた。

 ・・・

久しぶりに訪れる春ちゃんの家は、以前来た時よりきれいに整えられていた。

本棚の中にCDプレイヤーが置いてあるのに気づいた。
キッチンの方から気持ちを綴った声が聞こえる。

「急にアルバムを聴きたくなって……。
迷惑じゃなかったかなあ」

「いや、嬉しいよ」

以前再会した時には、君が寝てしまってできなかったことだ。
こうして実現できるのは嬉しいなって思う。

僕は、彼女が持ってきたマグカップを持ってみた。
そこには冷たいロイヤルミルクティーが注がれている。
でも、なんだかずっしりと重い気がしたんだ。

「これ、もしかして入れすぎたかな」

僕の問いかけにごめんと立ち上がる彼女。
その後ろ姿に僕は慌てて声を掛けた。

「自分のカップ持って来なくて良いよ……。
もし良ければだけど、このカップから飲んで」

振り返った彼女はやがて、静かに頷いた。


CDプレイヤーから最初の曲が再生された。
もしかして、アルバムを2枚分聞くのだろうか。

これでは2時間以上かかってしまう、でも悪い気はしなかった。

ミルクティーを飲み合う時間も。
アルバムを聴く時間も。
宝物のように思いたいから……。

「CDっていうのは、歌手の気持ちが詰まっているよね。
だから、このアルバムはみんなの想いが集約されている気がするんだ」

それは、僕や彼女だけではなく。
皆の視点で描かれる世界みたいな気がする。

おはようを言い合う朝。
他愛もない会話で笑い合う昼休み。
また明日でと終わる夕暮れ。

繰り返されていく毎日。
日々を紡いでいき、それらが織られて日常につながっていく。

それは、彩りに溢れている。

-おわり-