(春音side)

わたしはアパートに帰った。
制服を脱いで、シャワーの準備をする。

最近、君と一緒に居ることが嬉しくてたまらない。

それは安心感から生まれるのだろうか、とても温かい気持ちだった。
自分から話しかけることができる。
自然と歩調を合わせることができる。

ほかのみんなにはない感情が、彼には湧いてくる。

お風呂場の鏡が、わたしの左腕を映し出した。
そうだ、これのおかげだ。
相変わらず傷は残ったままだけど、今こうして生きている。

血のつながりはいったん途絶えてしまった。
でも、君とこうしてつながることができた、どんなにうれしいことか。
血の管がつながった彼に、生かされているんだよ。

わたしの脳裏に白いツツジの花が咲いていた。
今やっと、花言葉の意味が分かるような気がする。

シャワーヘッドから流れる水が、怖いものを押し流していく。
そういえば、春一番の翌日は暖かくなるんだ。
今度、お姉さんに会いにいこう。

 ・・・

週末、わたしは久しぶりに散歩に行くことにした。

今日は春の陽気で、きれいな空が広がっている。

姿見の前で手作りのワンピースを着た。
きれいな生地はわたしの腕をつるりと通り過ぎていく。

左腕に見える昔の傷も、キャスケットを付けないといけなかった茶色の髪も、
今はあまり気にしていない。

ちょっと肌寒いからパーカーを羽織っていこう。
だって、このワンピースをあの人に見せたいのだから、これがメインでなければ困るんだ。
腰についているリボンの形を整えて、わたしは意気揚々と出掛けて行った。

十字路で久しぶりに猫の華ちゃんに出会う。
ひなたぼっこを浴びて寝ているのは可愛いなあ。

ちょっと猫を撫でて先を急ぐ。
やがて、空色の喫茶店が見えてきた。

わたしは怖くないから、迷わずそのお店の扉を開けた。

喫茶店のマスターが振り返る。
腰まである髪を揺らして、彼女はふわりとほほ笑んだ。

「あら、いらっしゃい」

少しの沈黙……。
そして、夏のお姉さんはわたしに腕をのばしてきた。
少しはにかむように、握手をしようって言ってきたんだ。


言葉のリボンはいつか解けてしまうと思うんだ。
でも、また結び直すことだってできる。

その言葉を見つけられたなら、いつだって。