(ゆうside)

僕は春の女の子と合流して、十字路を右に歩いていくことにした。
公園や彼女の家がある方角だ。

相変わらず強い風が吹いている。
彼女は制服の上に羽織っているウインドブレーカーの胸元あたりを押さえている。
最近、彼女の方から会話を始めてくれるようになっていた。
なんだか成長の証みたいなものを見れて嬉しい。

「君は怖いものがある?」

「怖いものかあ……。
オバケは見たことないし怖くないなあ、妖怪なんてもっての他だね。
あ、先生が本気で叱ったときだ」

そうだね、とふたりして笑いあった。

強い風が吹いて、立ち止まった彼女のスカートを撫でた。
僕も合わせて歩くのを止めた。

「わたしは、自分の心が怖い……」

どこか遠い目をした瞳をしながら、彼女は自分の言葉を紡ぎだした。

「わたし、結局さ……、友達つくるの下手だったんだよ」

どういうことだろうか。
それは僕たちの、<おやつタイム>の関係を言っていると思った。
誰ともいわず、もう友達だ。

でも、彼女が言いたいことは、あの出来事についてだった。

「病院で話したよね、事故の相手。
信頼していた人なんだけど、離れてしまって……。
どう接すれば良いか分からなくて、怖いんだ」

彼女の悲しそうな顔に合わせるように、とてつもなく強い風が吹いた。
それは彼女の制服を揺らすような、強い風だった。

生地のように仲良い関係だったのに、あの日離れてしまった。
ほつれてしまった糸を、また繋ぎたいのに。
その方法が分からないんだ。

それは、当事者ではない僕には難しい問題だろう。
でも、彼女を落ち着かせる言葉をかけることはできる。

「案外、本気で怒っているわけじゃないのかもね。
今頃君が来るのを待っていると思うんだ」

そういうものかなあ。
彼女はまた眉毛を困ったように曲げていた。

でも、安心する言葉を見つけたようだった。

「うん、君の言うことなら信じてみる」

 ・・・

春ちゃんと別れて歩いていた。

強い風にあおられて何かが飛んできた。
思わずキャッチすると、早咲きの桜の花弁だった。

きれいに咲いていたのに、花嵐に遭って落ちてしまったんだ。

手のひらの上に置いてみると、なんだか桜の花が語っているように見えた。

悲しいことがたくさん続いてます。
早くあったかくなる日が来ますように。

……春ちゃんには嫌なことがたくさんあっただろうな。

そういえば、前に葉桜を写真に収めたことがあったっけ。
このように季節は巡るんだ。

もうすぐ、春の女の子の季節がやってくる。

 ・・・