(春音side)

わたしはショーウィンドウの商品を食い入るように見つめている。

それはひとつひとつがきれいに形作られて輝いていた。
まるで、小粒の宝石。

ここは駅ビルの中にある特設会場で、たくさんのチョコが売られている。
そう、バレンタインが近づいているのだ。

カラフルな看板には、
“あなたのバレンタインにチョコレートを贈りましょう”
と書かれている。

わたしはウィンドウ越しにそれらを眺めていた。
知らぬ間に自分のおでこをガラスに押し付けていて、店員さんは笑いをこらえているのに必死だった。

右手に持っている小袋に視線を落としながら我に返った。
こんな贅沢なチョコを買う余裕なんてないんだ。
スーパーのものを買うしかできないんだと思い直した。

その隣で、背の高い女性がサラッと注文しているのが耳に入る。

「8個入りのセレクションを、3つ」

彼女はすました顔で商品を受け取ると、ありがとうって言ってどこかに行ってしまった。
格好良かった。
これが、大人の魅力。

私はチョコのことを忘れて、その女性が見えなくなるまでずっと見つめていた。

 ・・・