彩~清か色の日常、言葉のリボン

(春音side)

わたしは春に生まれた。

だから、春にちなんだ名前を持っている。
出産の病院で見た花壇の花がきれいで、春の音色が響いていると思った。
お母さんはたしか、こんなことを言っていた。

4月も半ばになったある日、帰り支度をしているところに声を掛けられた。

「え、春ちゃんって……。
わたしのこと?」

わたしは自分で自分の顔を指さした。
そうだよ、って彼女はさも当然のことと頷いている。

「え、わたしはいいよ……」

消え入りそうな声でわたしは断った。
スタバに行こうよというクラスメイトの提案に首を横に振った。

明るいクラスにはだいぶ慣れた気がする。

誰かがこんなことを話している。
お昼休みに思い思いの様子を見せている。
その様子を見るだけならとても楽しいと思える。

人付き合いが嫌いじゃなくて、どう返せば良いか分からないんだ。
だから、話を振られても。
スタバって美味しいのかなあって想像するだけで終わってしまう。

誘ってもらったのに、用事があるって嘘をついてごめんなさい。

それにしても、春ちゃんだって。
今までそんな風に呼ばれたことが無いから嬉しかった。

下駄箱で靴に履き替えた。
校舎を出るとわずかに雲がある、爽やかな青の空だ。
午後の陽気が桜の緑の葉を丁寧に照らしていた。

なんだか気分が良くなって、散歩をしてみたくなった。

「ようし、回り道して帰ろうっと」

わたしはこの春から街に住みだした。
だから、知らないことが多いから歩いてみたいんだ。

5分歩くだけで家に帰れるのだけど、普段は行かない左方向に曲がってみよう。
キャスケットを被り直して意気揚々と歩いていった。

 ・・・

何があるんだろう……。
民家ばかりの中を歩いていると、まずコンビニを見つけた。

みんなが良く行っているお店<フレンドリィ マート>はここだったんだ。
メロンパンののぼりが立っている。
気になるなあと考えたその最中、コンビニのドアが開いた。
なんだか良い香りもしてきちゃった。

蜜に群がるカブトムシのようにわたしは吸い寄せられて……。
気づいたら右手にメロンパンの袋を抱えていた。

お金は大切なのにどうしよう。
誕生日だし、好きなものを贅沢するということで。


コンビニのわき道は緩い坂道になっていた。
陽があたるきれいな景色を少しばかり見つめていた。

そよ吹く風が気持ちよかった。

坂道に沿ってお店が並んでいて、小さいながらも商店街になっていた。

まるでおのぼりさんのように、歩きながら色々眺めてみる。
青果屋さんもお花屋さんも、どのお店も静かだけど和気あいあいとしている。
店員同士で話しているのもなかなか和やかで楽しい感じが伝わってきた。

BGMの代わりなのだろうか、ローカル局のものかラジオの声が流れていた。
女性DJが「過ごしやすい街並み~」なんて紹介している。

紹介されてくすぐったいけれど、わたしの住む町はこんな風になっているんだな。

 ・・・