(ゆうside)

春の女の子はなんだか緊張したようにアイスティーを飲んでいる。

なんだかペースが早いような気がする。
だから、気分を落ち着かせようと今日ならではの話題を切り出した。

「春ちゃんって、曲とかよく聞くの?」

彼女は飲む手を止めて、少し考える仕草で答えた。

「ううん、まったくだよ。
今まで友達いないし、テレビもろくに見てないからさ。
この人たちがどんな曲作ってるかなんて全然知らない」

それでも、お金をはたいて買ったとのことだ。
京都の有名なお寺から飛び降りるように、勇気のいることだろう。

「わたし、退院してからどこにも行ってなくて。
久しぶりに駅ビルまで行ってみたんだ。
そしてCDショップの前を歩いてたら曲が流れていたんだ」

前にメロンパンを衝動的に買ったことも話していた気がする。
彼女が好きになるのものは一目惚れが多いらしい。

「"この地球で出逢えた奇跡を知る"って良い歌詞だよね。
わたしと曲のっていう意味もあるし。
ここでこうして、っていう意味もあるのかなあ」

彼女はドキドキする台詞を簡単に言ってのける。
たしかに、アルバムは再会のきっかけになってくれたけど。

僕はつい彼女のことを見つめてしまった。

異性の前で言うようなセリフではないのに。
その無邪気な笑顔がきれいに輝いていた。

彼女は純粋なんだ。

 ・・・

歩きながら、彼女は小さな宣言を語ってくれた。

「わたし、今度から学校行くよ」

それは、とても小さな一言だったけど。
とても大きな出来事だった。

僕たちは電車の中で隣り合って座っている。

カメラ一台分の距離もなく、左腕に彼女の体温が伝わってくる感じだった。
お互いの耳には、僕のイヤホンが刺さっていて。
もちろんアルバムの曲が流れている。

でも、彼女はまったく聴けていなかった。
僕の肩にもたれ掛かって、眠ってしまっている。

都会に出てきて、だいぶ疲れてしまったのだろう。

先に降りるんだけど、彼女を起こすわけにもいかない。
正直困っている。
でも、緊張するけれどこのまま春ちゃんとずっといたかった。

歩道橋の上で撮ったツーショット写真は帰ったら現像しよう。


ふたりの関係がどうなるか、答えは僕とあなたの胸にある。