(詠夏side)

私は家に帰ってきた。

晩ごはんを用意することはせずに、軽く冷やしたウイスキーの封を開けた。
今まで感じたことのない香りが私の鼻腔をくすぐる。

ストレートが私の好みだ。

いつもより多く飲んだところで、むせび泣きを覚えた。
どういうわけか涙が溢れている。

……ほんと、泣いてばかりだよなあ。

春の女の子のメッセージも、千冬の期待も無駄にするんだ。
私は裏切り者なのかもしれない。

「……生きとし生ける者よ」

私はそんな独り言をつぶやくと、簪を手に取った。
ペリドットのチャームをは相変わらずきれいだなあ。

これが、私の最後の光景にしよう。

簪の穂先を左腕に押し当てても、それは血を流すことはせず皮膚を傷つけただけだった。
やがて、睡魔を覚えた私はその場で眠りについた……。