(千冬side)

私は、仕事の都合でこの街を歩いていた。

川岸の風景はなんだか珍しくてこうやって見ていたわけだ。
夕陽の川岸はとてもきれいだった。

呼びかけられて、私は声の方へ身体を向けた。

私は詠夏だと一瞬で分かった、
特に驚くことをせず息を吐いて彼女を見つめた。

ちょっと頬のラインが細くなったような気がするけど、
はんなりした美しさは変わっていない。

……でも。

夕暮れの黄昏のように、ミステリアスな印象を感じた。
それは成長の証ではない、つい最近芽生えた感情……。

……彼女は何かを秘めている。

お互いに見つめ合うように何も語らない。

沈黙を打ち破るように携帯電話のバイブレーションが鳴る、たぶんマネージャーだろう。
でも、電話に出るよりも重要なことがあった。
口にする言葉を探していたからだ……。

「元気?」

「うん、変わらないかな」

それだけの挨拶でお互いに別れていく。
私の横を通り過ぎる彼女に私は声を掛けた。

「今度、お店に行くね」

彼女は振り向きもせずに答えてくれた。

「……ありがとう」

 ・・・