(千冬side)
私はマネージャーからの電話に出ていた。
何気なくデパートの外を眺めていると、しゃがみ込む少女が目に入った。
電話口に語りながら様子を伺うも、彼女はなかなか立ち上がろうとしない。
放っておけば良いものの、電話を折り返しにして切ってしまった。
彼女のところに近づき声を掛けてみる。
「大丈夫かい?」
「大丈夫です……、すぐに立てますので」
けれども、力が入らないようでなかなか立ち上がる様子がなかった。
仕方ないので、抱きかかえるようにして身体を起こしてあげた。
そのまま彼女の手を引いて、近くのベンチに座らせた。
そこで待ってなさいと彼女に告げると、散らばったチョコを拾い集めていく。
ひとつだけしっかりした箱に入っているのが目についた。
何だか嬉しくなったのは秘密だ。
さらに、近くの自販機でミルクティーを買ってあげた。
ベンチのところまで届けると、彼女は申し訳なさそうに返事をした。
「ありがとうございます……。
こんなごちそうまでして頂いて」
彼女は小さな手でぎゅっとペットボトルを抱えた。
声量は日常でも苦労しそうだけど、透き通ったきれいな声だなって思った。
自然な茶色をしたボブショートの髪がどういうわけか愛らしい、って思った。
私はマネージャーのことを後回しにしてベンチに腰を下ろす。
その少女はミルクティーを一口飲んでチョコの袋に目をやる。
しばらく黙ってしまったので、仕方なく話題を切り出した。
「……どれも無事さ。大事なものなんだろう?」
彼女は視線を落としたまま答えてくれた。
「はい。
大切なお金なんですけど、ちょっと無理してでも揃えようと思って。
……ちゃんと渡したかったから」
それを聞いて私は嬉しくなった。
そうか、君には大切な友人がいるんだな。
いつの間にか話を切り出していた。
「チョコたくさんなんて、まるでバレンタインみたいだね。
バレンタインデーいうものはなんか苦手だな。
感謝はいつでもできるのに、どうも商売繁盛のイメージが先立ってしまう」
それに甘いのは嫌いなんだ、って話を締めくくるとお互いに笑ってしまった。
・・・
私は思い出したことがあった。
あれは中学生の頃、バレンタインの日の帰り道……。
詠夏が一人で立ち尽くしていた。
彼女の背中はとても寂しそうに見えた。
そんな表情を見るのは初めてだったから、私は彼女のコートにそっとミルクティーを差し込んであげる。
振り向いた彼女は静かに涙を流したのだった。
近くのベンチで話を聞いてあげることにした。
夏はクラスで起きた出来事を憂いていた。
「ほら、教科書は戻ってきたけれど。なんていうか……」
そのあと、夏さんなんて嫌い、とはっきり言われたのだった。
私は彼女が落ち着くまでずっと背中を撫でてあげた……。
いつの間にかだいぶ話し込んでいた。
夕暮れの冷たい空気に世界が変わっているような気がした。
「さてと、そろそろ行かないと……。
電話を待たせているからね」
立ち上がった私のコートを少女の手が掴み込んだ。
「助けた頂いたから、お礼です」
そう語る彼女の手のひらには銀紙に包まれたチョコがひとつだけ乗っていたのだった。
・・・
私はマネージャーとの電話を終えると、少女からもらったチョコを開けた。
それは、コンビニでも売っているキューブ状の安物なのだけれど、なんだか美味しかった。
まるで、春の陽だまりのような少女だったな、と思っていた。
私はマネージャーからの電話に出ていた。
何気なくデパートの外を眺めていると、しゃがみ込む少女が目に入った。
電話口に語りながら様子を伺うも、彼女はなかなか立ち上がろうとしない。
放っておけば良いものの、電話を折り返しにして切ってしまった。
彼女のところに近づき声を掛けてみる。
「大丈夫かい?」
「大丈夫です……、すぐに立てますので」
けれども、力が入らないようでなかなか立ち上がる様子がなかった。
仕方ないので、抱きかかえるようにして身体を起こしてあげた。
そのまま彼女の手を引いて、近くのベンチに座らせた。
そこで待ってなさいと彼女に告げると、散らばったチョコを拾い集めていく。
ひとつだけしっかりした箱に入っているのが目についた。
何だか嬉しくなったのは秘密だ。
さらに、近くの自販機でミルクティーを買ってあげた。
ベンチのところまで届けると、彼女は申し訳なさそうに返事をした。
「ありがとうございます……。
こんなごちそうまでして頂いて」
彼女は小さな手でぎゅっとペットボトルを抱えた。
声量は日常でも苦労しそうだけど、透き通ったきれいな声だなって思った。
自然な茶色をしたボブショートの髪がどういうわけか愛らしい、って思った。
私はマネージャーのことを後回しにしてベンチに腰を下ろす。
その少女はミルクティーを一口飲んでチョコの袋に目をやる。
しばらく黙ってしまったので、仕方なく話題を切り出した。
「……どれも無事さ。大事なものなんだろう?」
彼女は視線を落としたまま答えてくれた。
「はい。
大切なお金なんですけど、ちょっと無理してでも揃えようと思って。
……ちゃんと渡したかったから」
それを聞いて私は嬉しくなった。
そうか、君には大切な友人がいるんだな。
いつの間にか話を切り出していた。
「チョコたくさんなんて、まるでバレンタインみたいだね。
バレンタインデーいうものはなんか苦手だな。
感謝はいつでもできるのに、どうも商売繁盛のイメージが先立ってしまう」
それに甘いのは嫌いなんだ、って話を締めくくるとお互いに笑ってしまった。
・・・
私は思い出したことがあった。
あれは中学生の頃、バレンタインの日の帰り道……。
詠夏が一人で立ち尽くしていた。
彼女の背中はとても寂しそうに見えた。
そんな表情を見るのは初めてだったから、私は彼女のコートにそっとミルクティーを差し込んであげる。
振り向いた彼女は静かに涙を流したのだった。
近くのベンチで話を聞いてあげることにした。
夏はクラスで起きた出来事を憂いていた。
「ほら、教科書は戻ってきたけれど。なんていうか……」
そのあと、夏さんなんて嫌い、とはっきり言われたのだった。
私は彼女が落ち着くまでずっと背中を撫でてあげた……。
いつの間にかだいぶ話し込んでいた。
夕暮れの冷たい空気に世界が変わっているような気がした。
「さてと、そろそろ行かないと……。
電話を待たせているからね」
立ち上がった私のコートを少女の手が掴み込んだ。
「助けた頂いたから、お礼です」
そう語る彼女の手のひらには銀紙に包まれたチョコがひとつだけ乗っていたのだった。
・・・
私はマネージャーとの電話を終えると、少女からもらったチョコを開けた。
それは、コンビニでも売っているキューブ状の安物なのだけれど、なんだか美味しかった。
まるで、春の陽だまりのような少女だったな、と思っていた。