(春音side)

わたしはついに退院の日を迎えた。
2ヶ月ちょっとだけど、なんだか長かったような気がする。

朝ご飯を残さずに食べて、最後のバナナを食べながら外を眺めてみる。
額縁の世界もお別れかななんて思ったりした。
変わりゆく空の景色を飽きることなく楽しませてくれた。

いつの間にか新調してくれた制服に袖を伸ばしたところで看護師さんが来てくれた。
さすがですね! とパチパチ手を叩いて祝ってくれた。

「おめでとうございます! 元気一杯で何よりです。
今日は天気も良いですし、記念にお散歩しませんか」

何が記念かは分からないけど、一緒に歩いてみることにした。

エレベーターの中で、看護師さんは何だかにこにこしている。
その様子は楽しそうだ。
なんだろうと思っていたら、そっと耳打ちして話しはじめた。

「見てみたかったな、あなたのナイト」

ナイト。
鎧を着た姿を想像してみた。

「戦う人じゃないよ。
白馬の王子様みたいなやつ」

彼女が面白可笑しく言うので、きょとんとしてしまった。
玄関の前で私は気づいた。

白馬の王子様。
手の甲にキスをしてくれる人のことだ。
つまり、わたしには彼氏がいて、その人が輸血したのだろうと。
そういう推理だ。

わたしの顔は耳まで真っ赤だったと思う。

 ・・・

外の空気はひんやりと澄んでいて、羽織っているカーディガンを撫でる。
病院の入り口に咲いていたオレンジ色の花は地面に伏せていた。
なんだか物悲しさを感じさせる。

病院の近くには小さいながらも公園があって、そこまでなら歩いて行けるだろう。
でも、すぐ行ける距離だというのに歩き疲れてしまった。
ベンチに座ったわたしに、彼女は温かいペットボトルのお茶を渡してくれた。

「リハビリお疲れ様でした」

「ありがとうございます」

わたしは少しはにかんで答えた。

「ほら、あそこでフリスビーしている少年たち楽しそうですね。
さすが、子供は風の子ですねえ」

その言葉は私の頭の中をかすめていく。
退院することはおめでたい筈なのに、なんだか心が晴れないのはなんでだろう。
ついため息を出してしまった。

「退院したら何をしたいですか。
自分だったらさ、身体を動かしたいかなー」

またテニス頑張ってみせるわ、とラケットを振るそぶりをしていた。
でも、私は答える気になれずに顔をうつむいてしまう。
あらあらと、看護師さんは話題を変えてみた。
まるで彼女が独壇場で話しているみたいだった。

「それじゃあ、せめて学校に行かないとね。
クラスのみんなと一緒にいるのは楽しいものよ」

だって、わたし……。

「わたし、友達なんか会いたくないんです」

私は自分の想いを口にした。
とても迷惑をかけたから、たったこれだけの理由だけどわたしの胸にのしかかっている。

 ・・・