(ゆうside)

それから数日経って、図書室に集まって勉強をしていた。

授業の空き時間でもこうして集まることが多い。
今日はナギサとアヤカと一緒だ。

どちらかと言えば静かにしなければいけない雰囲気だけど、雑談程度なら特に注意されることもない。
そんな中、僕の耳にある歌声が流れてきた。

「方程式がわからん」

ほらあ、美少女が~、困っているんだよ~ と一人で歌っていた。
歌声は上手でも下手でもない。
そして美少女だと思ったこともない。

「はいはい」

と、僕は自分の手を止めて彼女の教科書を借りた。
まずここを分解するのが良くて……って説明してあげる。
彼女はまだ理解できていない、というか自分の説明を聞くだけのつもりだ。

しばらくしたら、また歌声が流れてきた。
だけどもみんな無視していて、僕は自分のレポート用紙に目をやる。

すると、彼女はこちらに目線を送ってきた。
気のせいか歌声が大きくなってきた気がする。
だから、僕は明らかに顔を背けてしまった。

彼女は続きを歌いだした。

「ほらあ、美少女が困ってるんだよー 助けてよー」

シカトしないでよう~ と新しい歌詞ができていた。
僕はつい言葉が漏れてしまったんだ。

「それくらい、自分でやりなよ」

言い方も悪かったんだと思う、彼女は唇を尖らせながら答えた

「わかりましたよー、自分でやりますよ~」

彼女の追撃は厳しかった。

「ねえ、そのレポート用紙だって春ちゃんの受け売りでしょう?」

自分の方法を編み出してみなさいよ、
こんなことを言われたように感じたから、つい反論しそうになった……。

「君たち、静かにしなさい!」

ここで声を出したのは美術部の彼女だった。
彼女は机の上に手をたたき、図書室中の視線を集めるような大声で注意してきた。

僕たちは当然のことながら萎縮してしまう。

「ふたりがケンカするなんて珍しいわね」

本気で怒った彼女の目線は何よりも怖い。
鋭い眼光で、今日はお開きにしましょうと宣言されてしまった。

僕たちの言い合いも。
アヤカのお叱りも。
春の女の子がいない喪失感から生まれているのだろう。

 ・・・

仕方なく学校を後にする
あまりにも会話は少なかったから、黄色くなりかけている木々に意識を合わせてみた。

それでも西から降る日差しはかすかに夏のように鋭かった。

お日様のような微笑みを見たい、君の愛で包み込んでくれないかなあ。
まるで、彼女の微笑みのように明るかった。

……春ちゃんの笑顔を見たくなった。

そんな、帰り道だった。

 ・・・