(ゆうside)

僕たちは駅前のスタバでアイスコーヒーを飲んでいた。
シュンが珍しく心配してくれる。

「気分は大丈夫か?
お前までどうなるかと思ったんだ」

「もう大丈夫だよ」

僕は右腕をさすりながら答えた。
それから、素直にごめんなさいと頭を下げた。

みんなにも、親にも心配をかけたような気がした。


あの時、ガラス板の前で春の女の子が倒れこんだ。

僕は最初、何が起きたかわからなかった。
この時、自分の脳が状況を理解するのが拒んだのか、場を見つめることしかできなった。

アヤカが春ちゃんを抱きかかえて、何度も呼び掛けていた

「春ちゃん……、春!
しっかりして、返事してよう」

春の女の子は全身に出血しまって意識が朦朧としていた。
当然、アヤカの制服にも血が付いてしまっていた。

気が動転した彼女が僕に向かって叫んだんだ。

「どうしよう、ゆう。
このままじゃあ、春ちゃんが……」

……死んじゃうかもしれない。

僕は彼女の台詞ではじめて、恐怖を覚えた。
足がすくんだのを今でも覚えている。

情けないことに、僕は何もできなかった……。
でも、なんとか声を絞り出してアヤカに指示をだした。

「春ちゃんを離してあげて」

「どうしてよ、そんなことをしたら……」

「傷口が開くでしょう、タオルで抑えるんだよ」

アヤカはすでに涙目になっていた。

その方法が正しいのかどうか分からなかったけど。
なんとかできることをしようと思ったんだ。

どうにか、無事でいて……それしか考えられなかった

 ・・・

スタバでのんびりしていると、僕の携帯電話が鳴った。
なんとも珍しい、アヤカからの着信だった。

シュンに断って、ちょっと席を外して電話に出た。

「良かった、電話に出てくれた。
あの……、無事でいてくれてよかったよ」

「うん、もう大丈夫だよ」

「どうなるか、不安で仕方がなかった。
春ちゃんのことも、君のことも」

でも、なんだか声が震えているような感じだった。
彼女が初めて見せた弱音だった気がする。

うん、僕は大丈夫だから、と重ねて電話越しに伝える。

「君がやったこと、素晴らしいと思うんだ……。
声が聴きたかったんだ、ありがとう」

そう言って、彼女は電話を切った。


……あの時、春の女の子のために、僕にできることを思いついた。

救急隊員に必死について行って、乗せて欲しいと頼み込んだ。

特別なことは僕にはできないんだ。
でも、彼女が笑顔になってくれること。
それだけは守っていきたいよ。

僕と彼女は血液型が一緒だから、僕には助けることができるんだ……。