(ゆうside)
教室の中に、透明のガラス板が5枚運び込まれてきた。
それは人の腰から少し上くらいの高さのもので、金属製のフレームがついている。
まるでジグソーパズルのような印象を感じさせた。
クラスのみんなが、その様子を静かに見守っている。
「美術部の没ネタがクラスに採用されたから、良かったね」
僕の隣に立っているアヤカが自信満々に言った。
彼女は期待で頬を紅潮させている。
今週末には文化祭があり、今日はその準備の日だ。
ほとんどの生徒がはじめてだという。
もちろん、僕だってそうなのだ。
クラスの出し物は<ステンドグラスの喫茶店>。
ガラス板に絵の具で色を塗って、ステンドグラス風の作品にする。
それを黒板の前に立て掛けるのだ。
他にも教室中にキラキラした小物で飾りつけを行う。
まるでファンタジーな空間を目指すことになっている。
文化祭の実行委員を務めるアヤカがパンパンと手を叩いている。
こういう時のリーダーシップは実に彼女らしくて素敵だと思っている。
僕は彼女に向けてカメラのシャッターを押した。
「ちょっと、ゆう。
撮影は準備が始まってからでしょ?」
僕はつい仕事を張り切り過ぎた。
それは文化祭のカメラマンとしてクラスのみんなを撮影することだ。
この間春の女の子にも言われたけれど、担任の先生からも依頼を受けたわけだ。
当日は一日中撮影して、終わったら現像してアルバムを作ることになっている。
大変だと思うけど楽しみだ。
アヤカは気を取り直して、みんなに号令を出した。
「さあ、みなさんやりましょう!
分かってると思うけど、ガラス板は慎重に取り扱ってくださいね」
絶対に成功させようという雰囲気が教室中にあふれている。
・・・
ナギサとシュンに声をかけた。
彼らは食べ物と飲み物の仕入れに<フレンドリィ マート>に行くことになっている。
「ほら、ポーズして」
ナギサはシュンの肩に手を掲げてピースサインをして見せた。
これではまるでデートの一部分に見える気がするけど、まあ良しとしよう。
ちなみに、シュンはこの後準備をサボると予想している。
その裏では今まさにガラス板が寝かせられている。
アヤカが眼鏡の奥で難しい表情をしながら見守っていた。
「じゃあ、下書きするから待っててね」
そう言ってひとりガラス板にペンを走らせている。
クラスメイトが手伝おうかと声をかけたが、彼女は適材適所だからと断った。
その様子を見かけて、僕は声を掛けた。
「何人か、仕入れを手伝ってあげると良いよ」
こちらを振り返らないで、彼女が告げる。
「さすがゆうだね、適切なことを言う。
2、3人で良いから誰か行ってきてね」
再びガラス板に向き合った彼女を静かに写真に収めた。
やがて、塗り絵が始められた。
春ちゃんを含めた数人の女子生徒たちがグループになっている。
まずは塗っている最中を撮影した。
そして、手を止めてもらって集合写真を撮ることにした。
「春ちゃん、君真ん中だよ」
グループのひとりがさりげなく誘導している。
春の女の子は恥ずかしいと言いつつ、はにかみながらピースサインをしてくれた。
「ありがとう」
僕は感謝を告げてシャッターを切った。
彼女たちは当日に店員を務めることになっている。
とびきりの衣装を着てくるように言われたらしく、カメラマンとしてモデル映えを気にするものだ。
ちょうどそんな話題になっていたみたいだ。
春の女の子が手作りのワンピースを……などと話していた。
・・・
教室の中で僕はアヤカに呼び止められた。
「ゆう、撮影は順調?
ガラス板が完成したら写真撮る時間をあげるから、好きなだけ撮影していいよ」
僕はパンフレットを作るチームに参加している。
パソコン作業が要るのと、写真デザインのスキルで推薦された形だ。
「パンフレットのデザインは君たちのチームに任せるから。
というか、君のセンスを信じてるよ」
彼女はそう言いながら僕に人差し指を向けた。
なんだか背中を押されたような気がしたのは気のせいだろうか。
そして、こうやって締めくくった。
「私が教室に居なかったら部室だと思うけど、何かあったら電話をちょうだいね」
どうやらアヤカは文化祭を運営するパートナーに僕を任命したいらしい。
彼女が僕と一緒にやりたがるのが何だか珍しかった。
僕たちの背中で、”塗り絵グループ”の明るい声が響いていた。
「ちょっと、春ちゃん!
制服に絵の具が付いちゃっているよ~」
「やだ、気づかなかった」
彼女の知らぬ間に制服に絵の具が付いてしまっているようだった。
「あ~あ、落ちないなあ」
スカートの裾を持ち上げながら呟いていた。
でも、なんだか可笑しかったようでそれでも笑っていた。
・・・
教室の中に、透明のガラス板が5枚運び込まれてきた。
それは人の腰から少し上くらいの高さのもので、金属製のフレームがついている。
まるでジグソーパズルのような印象を感じさせた。
クラスのみんなが、その様子を静かに見守っている。
「美術部の没ネタがクラスに採用されたから、良かったね」
僕の隣に立っているアヤカが自信満々に言った。
彼女は期待で頬を紅潮させている。
今週末には文化祭があり、今日はその準備の日だ。
ほとんどの生徒がはじめてだという。
もちろん、僕だってそうなのだ。
クラスの出し物は<ステンドグラスの喫茶店>。
ガラス板に絵の具で色を塗って、ステンドグラス風の作品にする。
それを黒板の前に立て掛けるのだ。
他にも教室中にキラキラした小物で飾りつけを行う。
まるでファンタジーな空間を目指すことになっている。
文化祭の実行委員を務めるアヤカがパンパンと手を叩いている。
こういう時のリーダーシップは実に彼女らしくて素敵だと思っている。
僕は彼女に向けてカメラのシャッターを押した。
「ちょっと、ゆう。
撮影は準備が始まってからでしょ?」
僕はつい仕事を張り切り過ぎた。
それは文化祭のカメラマンとしてクラスのみんなを撮影することだ。
この間春の女の子にも言われたけれど、担任の先生からも依頼を受けたわけだ。
当日は一日中撮影して、終わったら現像してアルバムを作ることになっている。
大変だと思うけど楽しみだ。
アヤカは気を取り直して、みんなに号令を出した。
「さあ、みなさんやりましょう!
分かってると思うけど、ガラス板は慎重に取り扱ってくださいね」
絶対に成功させようという雰囲気が教室中にあふれている。
・・・
ナギサとシュンに声をかけた。
彼らは食べ物と飲み物の仕入れに<フレンドリィ マート>に行くことになっている。
「ほら、ポーズして」
ナギサはシュンの肩に手を掲げてピースサインをして見せた。
これではまるでデートの一部分に見える気がするけど、まあ良しとしよう。
ちなみに、シュンはこの後準備をサボると予想している。
その裏では今まさにガラス板が寝かせられている。
アヤカが眼鏡の奥で難しい表情をしながら見守っていた。
「じゃあ、下書きするから待っててね」
そう言ってひとりガラス板にペンを走らせている。
クラスメイトが手伝おうかと声をかけたが、彼女は適材適所だからと断った。
その様子を見かけて、僕は声を掛けた。
「何人か、仕入れを手伝ってあげると良いよ」
こちらを振り返らないで、彼女が告げる。
「さすがゆうだね、適切なことを言う。
2、3人で良いから誰か行ってきてね」
再びガラス板に向き合った彼女を静かに写真に収めた。
やがて、塗り絵が始められた。
春ちゃんを含めた数人の女子生徒たちがグループになっている。
まずは塗っている最中を撮影した。
そして、手を止めてもらって集合写真を撮ることにした。
「春ちゃん、君真ん中だよ」
グループのひとりがさりげなく誘導している。
春の女の子は恥ずかしいと言いつつ、はにかみながらピースサインをしてくれた。
「ありがとう」
僕は感謝を告げてシャッターを切った。
彼女たちは当日に店員を務めることになっている。
とびきりの衣装を着てくるように言われたらしく、カメラマンとしてモデル映えを気にするものだ。
ちょうどそんな話題になっていたみたいだ。
春の女の子が手作りのワンピースを……などと話していた。
・・・
教室の中で僕はアヤカに呼び止められた。
「ゆう、撮影は順調?
ガラス板が完成したら写真撮る時間をあげるから、好きなだけ撮影していいよ」
僕はパンフレットを作るチームに参加している。
パソコン作業が要るのと、写真デザインのスキルで推薦された形だ。
「パンフレットのデザインは君たちのチームに任せるから。
というか、君のセンスを信じてるよ」
彼女はそう言いながら僕に人差し指を向けた。
なんだか背中を押されたような気がしたのは気のせいだろうか。
そして、こうやって締めくくった。
「私が教室に居なかったら部室だと思うけど、何かあったら電話をちょうだいね」
どうやらアヤカは文化祭を運営するパートナーに僕を任命したいらしい。
彼女が僕と一緒にやりたがるのが何だか珍しかった。
僕たちの背中で、”塗り絵グループ”の明るい声が響いていた。
「ちょっと、春ちゃん!
制服に絵の具が付いちゃっているよ~」
「やだ、気づかなかった」
彼女の知らぬ間に制服に絵の具が付いてしまっているようだった。
「あ~あ、落ちないなあ」
スカートの裾を持ち上げながら呟いていた。
でも、なんだか可笑しかったようでそれでも笑っていた。
・・・