(春音side)

喉が渇いたから、と<セプトクルール>に行く提案をしてみた。

ゆう君はなんて言うだろうか、ちょっと緊張したけれど。
断られなくて安心した。

「こんなお店があるなんて知らなかった」

彼はこう呟いていた。
わたしはためらうことなくドアを開けると、すぐに4人掛けのテーブル席に座る。
そしてメニューを見ずにアイスティーを注文した。

「今日はお連れ様も一緒なんですね。
君も同じにしますか?」

ゆう君は一通り眺めてから、アイスティーにミルクを付けてくれるよう頼んでいた。

「ストレートが美味しいのにぃ」

「だって好みじゃない」

たったこれだけのやりとりでもなんだか楽しかった。
わたしは知らずのうちに微笑んでいて、頬が上がっている。

やがて、ふたりのアイスティーが運ばれた。

ゆう君が注ぐミルク。
冷たいグラスの中に生まれる流れ。
ストローで混ぜる時の色の移り変わり。

それは、例えばショーウィンドウのアクセサリーを見るような。
そんな感じを覚えた。

「……どうしたの?」

彼に言われて、わたしは我に返った。
あわててなんでもないよ、と取り繕った。

 ・・・

お店を出る頃には、西日が強くなっていた。
いつの間にか生まれていた風がわたしの心を撫でる。

歩いている最中、どういうわけか寂しさを覚えたんだ。
もう、お店に行けない気がした。

……どうして?

そんな出来事が起こりえるなんて、知る由もなかった。
ゆう君に話そうと思った。
でも、やっぱりいいやと思ってわたしは口をつぼめてしまった。

帰宅したわたしは扇風機のスイッチを入れた。
回転する羽根に向けて、あ~って声を上げる。

やんわりした風がわたしの火照った身体に当たる。
少しずつ熱を奪っていくような気がした。

「ほんと、楽しかったなあ」

君と自転車に乗った時、実は怖かった。
でも君と一緒だから楽しくかった気がする。

ときめいていたんだよ。

あのミルクティー、なんだか見とれてしまったな。
ゆっくりと流れていくミルクがきれいに思えた。
まるで、わたし達の感情が溶け合っていくような気がしたんだ。
そうなれば嬉しいな……。

この気持ちは何処から来るかわからない。
でも、確かに抱きしめていたいと思う。