(春音side)
すこし欠伸をしていると、注文したホットコーヒーが運ばれてきた。
わたしはそのカップをしげしげと見つめていた。
漂う香りは上品な気品を感じさせて、好きになりそうだった。
でも、一口飲んでみると苦かった。
仕方ないので、ミルクを入れて飲むことにした。
「ふう、やっと飲めるなあ」
カフェインの効能に目覚まし効果があると何かで聞いた。
だから、こうして数学の宿題をこなすために注文してみたんだ。
方程式はなんだかややこしいなって思うんだ。
図形はなんていうか、直感で分かるのになあ。
こんなこと言ってもしょうがないから教科書に向き合った。
しばらくすると、喫茶店のマスターの苦笑するような笑い声が聞こえてきた。
わたしのドタバタ劇をずっと見つめていた。
「ねえ、宿題をするためにコーヒーを頼んだのかしら?」
「うん。
数学って苦手だから、しっかり取り組もうと思って」
わたしはペンを止めて頷いた。
すぐさまお姉さんの解説が入った。
「カフェインが眠気に効果があるのは、コーヒーを飲んで一旦寝るからですよ。
起きた時でもまだ少し眠いでしょ?
その眠気を抑制する効果があるのです」
ふうん、知らなかった。
「美味しかったかしら、ミルクをふたつも入れちゃって」
お姉さんにくすくす笑われてしまった。
すると、彼女はテーブル席にアップルパイを置いた。
「知人が贈ってくれたアップルパイを参考に作ってみました。
一口食べていってください」
リンゴの爽やかな味と焼き色の香ばしさを感じる不思議な味だった。
一口食べるだけで風味が広がった。
お姉さんの料理の美味しさを知ることができた。
それきり、彼女はキッチンに戻り椅子に座り頬杖をついていた。
いつもに増して頬が赤くて、軽くため息をついている。
もしかして。
知人の人って、どういう訳かこないだの男性のことだと思った。
たぶん、そうなんだと思う。
告白されるってどんな気持ちだろう……。
相手を大切に思う言の葉。
わたしには程遠い世界、いつかときめいてみたいって思うけれど。
軽く目を閉じていたお姉さんが軽く目を開けた。
遠い目で窓の外を見る彼女は、憂いに満ちていてなんだか魅力的に見えてしまう。
わたしはつい声をかけていた。
「今度の連休って空いてますか?
少し気分を変えて文化祭に来て欲しいんです。
お洒落な喫茶店をするので来てほしいなあ」
彼女はやっと微笑ましい表情になった。
こちらにウインクしながら返事をしてくれる。
「ありがとう、お店があるから難しいかなあ」
今話をするテーマじゃないことくらい分かっている。
だから、切ない本筋に戻して本当の質問をした。
「……お姉さん、答えどうするの」
わたしの質問の意味を理解したのだろう。
視線を動かさないまま、消え入りそうな声で答えた。
「君もいつかほだされることがあるかもしれないわね。
でも、信じるようにすればいいんだよ」
彼女が告白されたことは、わたしたちだけの秘密だ。
でも、答えを出すのはお姉さんだ。
わたしはそれについて訊く立場じゃないよね。
だから、わたしは言葉をひとつだけ残して。
その場をお暇することにした。
「素敵な答えを見つけてね」
ありがとう、夏のお姉さんは少しうつむきながら答えた。
・・・
すこし欠伸をしていると、注文したホットコーヒーが運ばれてきた。
わたしはそのカップをしげしげと見つめていた。
漂う香りは上品な気品を感じさせて、好きになりそうだった。
でも、一口飲んでみると苦かった。
仕方ないので、ミルクを入れて飲むことにした。
「ふう、やっと飲めるなあ」
カフェインの効能に目覚まし効果があると何かで聞いた。
だから、こうして数学の宿題をこなすために注文してみたんだ。
方程式はなんだかややこしいなって思うんだ。
図形はなんていうか、直感で分かるのになあ。
こんなこと言ってもしょうがないから教科書に向き合った。
しばらくすると、喫茶店のマスターの苦笑するような笑い声が聞こえてきた。
わたしのドタバタ劇をずっと見つめていた。
「ねえ、宿題をするためにコーヒーを頼んだのかしら?」
「うん。
数学って苦手だから、しっかり取り組もうと思って」
わたしはペンを止めて頷いた。
すぐさまお姉さんの解説が入った。
「カフェインが眠気に効果があるのは、コーヒーを飲んで一旦寝るからですよ。
起きた時でもまだ少し眠いでしょ?
その眠気を抑制する効果があるのです」
ふうん、知らなかった。
「美味しかったかしら、ミルクをふたつも入れちゃって」
お姉さんにくすくす笑われてしまった。
すると、彼女はテーブル席にアップルパイを置いた。
「知人が贈ってくれたアップルパイを参考に作ってみました。
一口食べていってください」
リンゴの爽やかな味と焼き色の香ばしさを感じる不思議な味だった。
一口食べるだけで風味が広がった。
お姉さんの料理の美味しさを知ることができた。
それきり、彼女はキッチンに戻り椅子に座り頬杖をついていた。
いつもに増して頬が赤くて、軽くため息をついている。
もしかして。
知人の人って、どういう訳かこないだの男性のことだと思った。
たぶん、そうなんだと思う。
告白されるってどんな気持ちだろう……。
相手を大切に思う言の葉。
わたしには程遠い世界、いつかときめいてみたいって思うけれど。
軽く目を閉じていたお姉さんが軽く目を開けた。
遠い目で窓の外を見る彼女は、憂いに満ちていてなんだか魅力的に見えてしまう。
わたしはつい声をかけていた。
「今度の連休って空いてますか?
少し気分を変えて文化祭に来て欲しいんです。
お洒落な喫茶店をするので来てほしいなあ」
彼女はやっと微笑ましい表情になった。
こちらにウインクしながら返事をしてくれる。
「ありがとう、お店があるから難しいかなあ」
今話をするテーマじゃないことくらい分かっている。
だから、切ない本筋に戻して本当の質問をした。
「……お姉さん、答えどうするの」
わたしの質問の意味を理解したのだろう。
視線を動かさないまま、消え入りそうな声で答えた。
「君もいつかほだされることがあるかもしれないわね。
でも、信じるようにすればいいんだよ」
彼女が告白されたことは、わたしたちだけの秘密だ。
でも、答えを出すのはお姉さんだ。
わたしはそれについて訊く立場じゃないよね。
だから、わたしは言葉をひとつだけ残して。
その場をお暇することにした。
「素敵な答えを見つけてね」
ありがとう、夏のお姉さんは少しうつむきながら答えた。
・・・