(詠夏side)

その日の夜、帰宅した私は膝を抱えて独り言を漏らした。

「ひどいんですよ……」

そう、来客した彼から告白の一言をもらったのだ。
あの時の出来事はありありと思い出せる。

私はまたテーブルの上で会話に花を咲かせていた。

よくしゃべり、相手の話を聞き入れて。
たまにふっと考える仕草になり、また笑う。

私の嬉しい表情を見て、彼の頬も上がっているようだった。
でも、そのあと急にうつむいてしまう。

どうしたの? 私は首をかしげて続きを待っていた。
いつもより顔が赤い気がする。

「あの……。
僕の言うことを聞いて欲しいんです」

「きゃー!!」

驚いた声を発したのは自分ではなく、店の隅で勉強していた春の女の子だった。
彼は奥に居る少女に気づかずに告白してしまった。
思いっきり聞かれてしまった。

まさか、こんな展開になるなんて思わなかった。

「すみません、お見苦しいところを……」

私は気が動転しながらも謝った。
そして、返事を先延ばしにして、彼には帰ってもらった。

彼の”付き合って欲しい”という発言は本気のものだった。
私の心を穿つ、なんとも煌めいた言葉なのだけど。

コーヒーやアップルパイが好きなんて言いながら気を引こうとしたわけではない。
彼は純粋なんだ。
だからこそずるいような気がした。

……いつから想ってくれていたんだろう。

嬉しいことには変わりがない。
でも、彼に返す言葉を見つけられないでいる。

もう叶わないけれど、おばあちゃんに相談してみたくなった。
なんて言われるのかなあ。
私の背負っているものを指さして、それがあるから止めるべきというだろうか。
それは関係なく、君の道を歩いて行くべきというだろうか。

見えない十字架を彼になんて伝えればよいのだろう。
私の中で答えを見つけられないでいる。

ロックグラスの中でハイボールの氷がかちりと割れた……。

 ・・・