(ゆうside)

いつの間にか天気が急変していた。

晴れていた空は雲隠れしてしまい、ひんやりした強い風が吹いている。
自転車を走らせるのは危なそうだ。
歩道に自転車を押し入れると、少し先の方に春の女の子がいることに気づいた。

彼女は必死にキャスケットを押さえながら歩いている。
そういえば、外で見る彼女はいつもあの帽子を被っているな。
はじめて出会ったときもそうだった。

風が彼女のスカートを揺らして。
彼女がそちらに気を取られて。

慌てて押さえた瞬間、帽子が飛ばされてしまう。
それは僕の足元に着地した。

「ほら、帽子が落ちたよ」

「ありがとう。
わたし、これを被ってないといけなくて……」

春の女の子はこちらに小走りで走ってくると、僕から受け取った。
そのまま被るのかと思ったら、帽子を持ったままこちらを見つめてくる。

風が彼女の髪だけでなく、瞳を揺らしているような感じがして。
僕は吸い込まれるようにその場から動けなかった。

「あの、わたしって変かなあ?
こんなに明るい茶色の髪だから、外が不安なんだ……」

そうかな。
容姿についてコメントできる自信はないけれど、おかしいところはないと思う。
僕は正直な感想を口にした。

だけども、彼女は苦笑しながら首を横に振った。

「もしかしたら、染めてるんじゃないかって思うでしょ。
でも違うんだ。
もともとこんな色なんだ」

……わたしはみんなと違うんだよ。
そう語る彼女に、つい引き寄せられていた。

「もし、わたしが秘密を持っていたとしたら、知りたいですか」

彼女の瞳はしっかりとこちらの方を見ている。
まるで、君を頼りたい。
そんな意思を感じたから僕は首を縦に振って答えた。

「……君が話したいなら、聞くよ」

彼女は遠い目をして語りだした。

「わたしはね、みんなとは全く違うんだ。
髪の色も、小さい頃の思い出も……」

その言葉は、ただ友人が居ないのかなって思った。
でも、紡がれる言葉は高校生には重いものだった。

「この春から一人暮らししてるんだよ。
訳があって、親戚にお世話になって。
最後にたどり着いた親戚に一番近い高校だから」

僕はしばし言葉が出なかった。
切なくはにかむ彼女の表情をまじまじと見つめてしまった。

「その髪色、素敵でかわいいと思う」

つい口走ってしまったのはこんな言葉だった。
彼女は頬を赤らめて、ありがとうと小声で告げた。

 ・・・