(シュンside)

スタートラインに自分は立った。
目指すはゴールただひとつ、それを睨んでいた。

誰よりも速くたどり着くんだ……。

 ・・・

陸上部。

己との勝負の世界だなって思う。
1分1秒を如何なる時でも狙わないといけないんだ。

昔から体力と運動神経には自信があった、親にもスポーツを勧められた。
ただそれだけだった、だけど自分自身に挑戦してみるものがあっても良いのかもしれない。

軽い気持ちなのかもしれないが入部してみた。


今日は100M走のテストをやっている。
スタートダッシュは完璧だった。
でも、初速はあってもそのままリードするのは難しかった。

あっという間に追い抜かれてしまう。

「そんな……」

なにか高い壁があるのだろうか、一向にあるタイムは上がらなかった。

 ・・・

色んなところに、障害物というのものはあるものだと思う。

今遊んでいる携帯ゲームだってそんな気にさせてしまうものだ。

最近流行りの、巨大モンスターを狩るアクションゲームだ。
モンスターを倒すことができたら、新しい武器を作るための素材が手に入る。
そして新しい狩りに旅立つ。

永遠と遊べるゲームだなって思う。

ゲームといえば、<おやつタイム>の皆が共通して会話できる趣味のひとつだ。

みんなは少なからずゲーム機は持っていた気がする。
小さいモンスターを育成してバトルするゲームは共通項みたいなものだ。

そういえば、ゆうがナギサにゲームを貸してもらっていた

ふと考える、春の女の子はゲームをするのかな。
昼休みのトランプすら初めてだって言ってた、随分楽しそうに遊んでいたっけ。

もし何か遊びたいとか言ったら、自分の古い携帯ゲームでも貸してあげようか。


その時だった、ゲームの音が緊急事態を知らせてくれた。
急いで意識をゲームの世界に戻す。

モンスターが炎のブレスを放っていた。
方向キーを思いっきり入れて、寸前のところでかわすことができた。

でも、こちらに飛んできて爪を立ててきた。
それは回避することができず、ダメージを受けてしまう。

ゲームオーバー……。

「飛んでくるのかっ」

思わず舌を巻いた。
仕方なくコンティニュー。

その後は何度やっても同じだった。
炎のブレスは回避しても、爪はかわすことができない。

装備を変えても攻撃のやり方を変えてみても同じだった。

ゲーム機の充電が切れそうなのに気づいたときには、いつの間にか0時を回っていた。
データをセーブしてベッドの中に入る。

陸上もゲームも同じなのかもしれないな……。
やるからには勝ち上がりたい、でも上手くいかないことだってあるんだ。

「プロになりたいなあ」

俺は地団駄を踏みたい気持ちを抑えて眠りについた。

 ・・・

それから数日経った。

100Mのタイムは相変わらず伸びなかった。
サボっている訳ではないが、もう飽きてきたのを自覚してしまった。

今日は部活が休みの日だから、ゲームセンターにでも行こうか。

そう考えながら歩いていると、<フレンドリィ マート>のフードスペースにて一人の学生の姿を見た。

明るい茶髪だからすぐに誰か分かった。
春の女の子だった。

思わずその場に立ちつくして見てしまった。
彼女の姿はうつむいたままで飲食をしている雰囲気じゃなかった。

……何をしているんだろう。


どういうわけか興味をそそられた。

店内に入り、グレープ味の炭酸飲料を買った。
静かに近づいて、さりげなく彼女の隣に座る。

すると、彼女は小さい目を思いっきり見開いて驚いていた。
ひゃ! と小さな声を上げて、両手を小さな口のところに当てて押さえている。

ドッキリに引っ掛かったような表情というのはこういうものだろうか。

「え?
君、どうして……。
もしかしてわたしは寝てたのかな、見られちゃったの」

恥ずかしいです……、と呟きながら、顔をうつむいてしまう。
なんと、彼女はここで勉強していて気づいてない間に眠ってしまったようだ。

「ほら、飲み物やるわ」

テーブルの上に広がっているノートや教科書の隣に飲み物を置くと、
彼女はうつむいたまま横目で缶を見てきた。

……そのまましばしの時間が過ぎた。

「ありがとう、丁度喉が渇いてたんだ」

彼女が言うには、気になることがあるとこうやって勉強するとのことだ。
帰る途中でも、喫茶店に行ったりするらしい。

「コツコツと進めるのが自分に合うのです」

そういうものだろうか。
自分とはだいぶ勉強法が違うみたいだ。

「なんだろう、勉強のモードに切り替えるみたいなものか?」

「うーん、そうでもないなあ。
あの公式ってなんだっけと思ったら数学の教科書を開くんだよ。
分かったらすぐ閉じるんだ」

大したことじゃないよ、と彼女は簡単に言ってのけた。

 ・・・

<フレンドリィ マート>を出て再び歩いていた。

「少しずつ、か……」

春の女の子は自分にできないことをしていた。
コツコツとこなす姿になんだか好意を覚えたのは気のせいだろうか。

その日の晩、炎のブレスを放つモンスターを倒すことができた。
もしかしたら、陸上のタイムも少しずつ更新できるかもしれない。