(ゆうside)
放課後の教室に明るい声が響いている。
僕と、<おやつタイム>のメンバー、そして今日は春の女の子も居る。
ただおやつを食べながら雑談をするだけ。
それでも、彼女がいるだけで彩りが増していくような感じがする。
半袖の制服に身を包んだ彼女は、新鮮な可愛さがある気がした。
今日は風がなくて蒸し暑い日だった。
だから、僕は暑いねと口にしてみる。
会話の振り出しは天気の話題が良いと聞くから、たまにやってみるわけだ。
視界の向こうでは春の女の子が口をすぼめていた。
何があったのだろうか。
なんだか言い出しそうにしていたのに、急に閉ざしてしまうから気になってしまう。
どうしたのと問いかけても、なんでもないよと答えられてしまった。
「ホント、キレそう」
軽く物騒なことを言ったのはナギサだ。
彼女は昨日も飲んだコーラを一気に飲みほした。
そのまま携帯電話の画面を見ながら声を上げる。
それは春の女の子が自分のスカートをパタパタ仰いでいたからじゃない。
ちなみに、僕の場所からはスカートの中まで見えていたので慌てて目を背ける。
ナギサは携帯電話で何やら記事を見ているのだ。
それは血液型診断のようだった。
「私、B型なのにABっぽくない?」
AB型:
気分屋で猫気質
本気になったら"誰にも負けない"と思っている
アヤカがツッコミを入れていた。
「あなたは、猫というよりただの負けん気よ」
「お前は勝負事に気合い入れすぎなの」
そこにシュンがすかさず参戦すると、多勢に無勢か彼女が唇を尖らせる。
「なによ、みんなして」
ナギサがそっぽを向きながら頬を膨らませてしまった。
この雑な雰囲気こそ<おやつタイム>の魅力というやつだろう。
常に誰かが話題を提供して、誰かが反応する。
そして自然と会話が広がっていく。
その輪の中に、春の女の子も混ざってくれれば良いなと思っている。
ナギサのことをからかっていたシュンが、急に僕に話を振ってくる。
少し笑いながら僕の血液型を当ててみせた。
「お前はO型だろう」
え、なんで分かるのだろうか。
すると、彼らが頷きながら声を揃えて言った。
「だって、なんだかわかるし」
O型:
なんか抜けている
ひとりの時間がないとダメ
僕は思わず最後のひとり、春ちゃんの方を見た。
結局、彼女はほとんど話していないのだが。
春の女の子はおずおずと口にした。
「あのう、わたしもO型なんです」
一気に親近感が湧いてきた。
・・・
話はどんどん楽しくなり、どれだけの時間が経ったのか分からなかった。
だから、おやつが無くなっていることには誰も気づかなかった。
「チョコ無くなってるじゃん。
誰かちょっと買ってきてよ」
シュンがおやつの箱に手を突っ込んだまま言った。
私が行くの、と反論したのはナギサだった。
「もうちょっと食べたいもの」
彼はまるで子供のような理由を言って、買ってきてほしいと言っている。
ハイハイと手を叩いて合図したのはアヤカだ。
「ハイハイ、無くなったなら買いに行きましょう」
僕は立ち上がってコンビニ行ってくるよと告げた。
買いに行くのが最適な回答だと思ったからだ。
・・・
僕は学校を出て、コンビニで出掛けて行った。
その隣には春の女の子が居る。
彼女も行きたいというから同行してもらったわけだ。
ふたりだけの空間というのは久しぶりな気がした。
手が当たるか当たらないかの距離だけど、特に気になるわけではなかった。
「なんか悪かったね。
みんな、ちょっとずつぶつかる場面があるんだ。
僕なんか、甘くて弱いって言われるよ」
何もできないんだって苦笑しながら言った。
けれども、春ちゃんは何だか嬉しそうだった。
なんでだろうか、思わず彼女の方を振り返る。
彼女は後ろ手に手を組んで語りだした。
「ううん、時に気にしてないよ。
あのふたりが怒っているわけじゃないのは分かるつもりだから」
彼女なりに様子を見ているんだ。
ふと思って、クラスの雰囲気を訊いてみた。
「わたし、これでも馴染んでいるつもりだよ。
友達つくるの下手だからさ、上手く話せなくて」
「そう言えば、さっきもなにか言いかけたよね。
あの話題良いの? 口にしたらみんなが拾ってくれるよ」
「……もう良いんだよ」
彼女は苦笑しながら恥ずかしそうに教えてくれた。
それはただの天気について話そうとしただけで、僕にタイミングを取られただけだ。
……なんだかごめんなさい。
「でもさ、おやつ 食べながら話すと安心するんだ。
ここでやっていけそうだなって思えるよ」
そうか。
彼女は自分から話すのが苦手なだけなんだな。
それが、彼女なりの距離感というやつだろう。
「みんな仲が良さそうだなあって……。
でも、わたしなんかがみんなの中に入って良いのかなあ」
羨ましいって彼女は言ってくれた。
「わたしはこうやって話したことが無いから、集まるだけでも楽しいんだよ」
<フレンドリィ マート>で切り株の形をしたチョコを買って教室に戻ると、みんな笑いあっていた。
なんてことはない、仲の良いグループが出来つつあった。
放課後の教室に明るい声が響いている。
僕と、<おやつタイム>のメンバー、そして今日は春の女の子も居る。
ただおやつを食べながら雑談をするだけ。
それでも、彼女がいるだけで彩りが増していくような感じがする。
半袖の制服に身を包んだ彼女は、新鮮な可愛さがある気がした。
今日は風がなくて蒸し暑い日だった。
だから、僕は暑いねと口にしてみる。
会話の振り出しは天気の話題が良いと聞くから、たまにやってみるわけだ。
視界の向こうでは春の女の子が口をすぼめていた。
何があったのだろうか。
なんだか言い出しそうにしていたのに、急に閉ざしてしまうから気になってしまう。
どうしたのと問いかけても、なんでもないよと答えられてしまった。
「ホント、キレそう」
軽く物騒なことを言ったのはナギサだ。
彼女は昨日も飲んだコーラを一気に飲みほした。
そのまま携帯電話の画面を見ながら声を上げる。
それは春の女の子が自分のスカートをパタパタ仰いでいたからじゃない。
ちなみに、僕の場所からはスカートの中まで見えていたので慌てて目を背ける。
ナギサは携帯電話で何やら記事を見ているのだ。
それは血液型診断のようだった。
「私、B型なのにABっぽくない?」
AB型:
気分屋で猫気質
本気になったら"誰にも負けない"と思っている
アヤカがツッコミを入れていた。
「あなたは、猫というよりただの負けん気よ」
「お前は勝負事に気合い入れすぎなの」
そこにシュンがすかさず参戦すると、多勢に無勢か彼女が唇を尖らせる。
「なによ、みんなして」
ナギサがそっぽを向きながら頬を膨らませてしまった。
この雑な雰囲気こそ<おやつタイム>の魅力というやつだろう。
常に誰かが話題を提供して、誰かが反応する。
そして自然と会話が広がっていく。
その輪の中に、春の女の子も混ざってくれれば良いなと思っている。
ナギサのことをからかっていたシュンが、急に僕に話を振ってくる。
少し笑いながら僕の血液型を当ててみせた。
「お前はO型だろう」
え、なんで分かるのだろうか。
すると、彼らが頷きながら声を揃えて言った。
「だって、なんだかわかるし」
O型:
なんか抜けている
ひとりの時間がないとダメ
僕は思わず最後のひとり、春ちゃんの方を見た。
結局、彼女はほとんど話していないのだが。
春の女の子はおずおずと口にした。
「あのう、わたしもO型なんです」
一気に親近感が湧いてきた。
・・・
話はどんどん楽しくなり、どれだけの時間が経ったのか分からなかった。
だから、おやつが無くなっていることには誰も気づかなかった。
「チョコ無くなってるじゃん。
誰かちょっと買ってきてよ」
シュンがおやつの箱に手を突っ込んだまま言った。
私が行くの、と反論したのはナギサだった。
「もうちょっと食べたいもの」
彼はまるで子供のような理由を言って、買ってきてほしいと言っている。
ハイハイと手を叩いて合図したのはアヤカだ。
「ハイハイ、無くなったなら買いに行きましょう」
僕は立ち上がってコンビニ行ってくるよと告げた。
買いに行くのが最適な回答だと思ったからだ。
・・・
僕は学校を出て、コンビニで出掛けて行った。
その隣には春の女の子が居る。
彼女も行きたいというから同行してもらったわけだ。
ふたりだけの空間というのは久しぶりな気がした。
手が当たるか当たらないかの距離だけど、特に気になるわけではなかった。
「なんか悪かったね。
みんな、ちょっとずつぶつかる場面があるんだ。
僕なんか、甘くて弱いって言われるよ」
何もできないんだって苦笑しながら言った。
けれども、春ちゃんは何だか嬉しそうだった。
なんでだろうか、思わず彼女の方を振り返る。
彼女は後ろ手に手を組んで語りだした。
「ううん、時に気にしてないよ。
あのふたりが怒っているわけじゃないのは分かるつもりだから」
彼女なりに様子を見ているんだ。
ふと思って、クラスの雰囲気を訊いてみた。
「わたし、これでも馴染んでいるつもりだよ。
友達つくるの下手だからさ、上手く話せなくて」
「そう言えば、さっきもなにか言いかけたよね。
あの話題良いの? 口にしたらみんなが拾ってくれるよ」
「……もう良いんだよ」
彼女は苦笑しながら恥ずかしそうに教えてくれた。
それはただの天気について話そうとしただけで、僕にタイミングを取られただけだ。
……なんだかごめんなさい。
「でもさ、おやつ 食べながら話すと安心するんだ。
ここでやっていけそうだなって思えるよ」
そうか。
彼女は自分から話すのが苦手なだけなんだな。
それが、彼女なりの距離感というやつだろう。
「みんな仲が良さそうだなあって……。
でも、わたしなんかがみんなの中に入って良いのかなあ」
羨ましいって彼女は言ってくれた。
「わたしはこうやって話したことが無いから、集まるだけでも楽しいんだよ」
<フレンドリィ マート>で切り株の形をしたチョコを買って教室に戻ると、みんな笑いあっていた。
なんてことはない、仲の良いグループが出来つつあった。