とぼとぼと足取り重く歩き出す。就活の帰りにたまたま見つけたこの神社に参拝に来るのは何度目だろう。てかこの神社ホントに御利益あるわけ? 全然効果ないんですけど。もしかしてぼったくり? まさか五円じゃ足りないとか言うんじゃないでしょうね? うわ、神様のくせにドケチ!
……はぁ。この先の人生、どうなるんだろう。このまま肩身の狭い思いをしながら歳だけ取って結婚もせず子供もいなく、一生独りで最期は誰にも看取られる事なく孤独死で終わるのかな。……うわ、ありえる。ていうかこのままいくと間違いなくそうなるんですけど!? ていうかそんな人生せっかくここまで育ててくれたおばあちゃんに申し訳なさ過ぎるって! やばいよやばい、なんとかしなきゃ!!
足を止めて俯いていた顔を勢い良く上げる。するとそこには見覚えのない景色が並んでいた。ただし、トンネルの向こうの不思議な町でも妖怪の住むアヤカシの世界でもないのでそこは安心してほしい。
……でも、ここ……どこだ?
ネガティブな将来ビジョンを考えていたせいでどうやら道を間違えてしまったらしい。ええ……嘘でしょう? この歳でまさかの迷子なの? 最悪すぎてマジで泣きそうなんだけど。位置情報を確認しようと取り出したスマホの画面は真っ黒で、ボタンを押してもびくともしない。まさかの電池切れである。弱り目に祟り目、泣きっ面に蜂。はは、最悪すぎてマジ泣ける。
つーか……本当にここはどこなのよ。キョロキョロと辺りを見回すと、昭和感の漂う古き良き建物が目に入った。ガラス戸に貼られているのは日に焼けて茶色く変色したポスター、その前に置かれているのはカプセルに入ったおもちゃが出てくる、子どもが大好きなガチャガチャの機械。ていうか……お掃除戦隊クリーンファイブ? 何これ聞いたことないんだけど。〝地球の悪を掃除します!〟って上手くないから。誰がやるのよこんなガチャガチャ。もしかしてこれが今の子ども達に人気のヒーロー戦隊なんだろうか。時代は変わったなぁ。
〝駄菓子屋六角堂〟
木の板で作られた横長の看板には、習字のお手本のような見事な行書体でそう書かれていた。あたしはその名前を頭の中でもう一度呟く。駄菓子屋六角堂。……ってことはここ駄菓子屋さんなの? あの、ワンコインでたくさんのお菓子が買えるという子どもにとって夢のような、そして全国の親御さんにはお財布に優しい家計の強い味方であると評判の駄菓子屋さん? 古き良き時代、昭和の産物とも言えるあの素敵な駄菓子屋さんなの? へぇ、今でもあるなんて珍しい。あたしは吸い寄せられるようにお店に近付いていく。
しかし、その入り口は閉まっていて覗いてみても中がどうなっているのかまったく見えなかった。誰もいないのだろうか。古い店だし、もしかしてもうとっくに廃業してる?
「……おい」
「ぎょあ!?」
背後から突然男性の低い声が聞こえてきて、私は驚きのあまり奇声をあげて振り向いた。ていうかぎょあってなに。こんな言葉漫画でも見たことないんですけど。めちゃくちゃ恥ずかしい。
「うちの店に何の用だ」
振り向いた先に居たのは、黒地に白いラインの入ったパーカーに細身のスキニージーンズを穿いた背の高い男の人だった。シルバーのピアスがとても似合っている。男性は、えらく整った顔をこれでもかというほど歪め、鋭い眼光であたしを睨みつけていた。
「……え? や、あの、」
あまりの衝撃に青ざめた顔で口をパクパクさせていると、男性の眉間にぐぐっとシワが寄った。更にチッと舌打ちを鳴らす。三白眼も相まって大迫力である。ちょっと! この人怖いんですけど! ヤンキー!? それとも取り立て屋!?
「うちの店に何の用だって聞いてんだよ」
……店? うちの? あたしの頭にはたくさんの疑問符が浮かぶ。
っていうかなんなの、蛇に睨まれた蛙みたいなこの状況。あたしはただ家に帰りたいだけなのに。面接に落ちて迷子になってスマホの充電落ちて、最後は変な男にカツアゲ? あたしの人生ホントなんなの。ゆらゆらと視界が滲んできた。
「……まぁいい。とりあえず入れ」
「え?」
男性が溜息を吐きながら言った。
「ラムネぐらいなら奢ってやる。だからその死にそうな顔なんとかしろ。うっぜーから」
面倒臭そうに言うと、男性は足早にこちらに向かって歩いてきた。ポケットから鍵を取り出し、慣れた手つきであたしの後ろにある扉をガタガタと開ける。店内を隠すように覆っていたカーテンをシャッと開けると、そのまま中に入ってしまった。
え、入れって……ここに? 入口の前で呆然と立ち尽くしていると、さっきの男性が眉間にシワを寄せた不機嫌顔を覗かせた。
「早く入れよ。じゃなきゃ営業妨害で訴えんぞ」
有無を言わせぬ口調でそう言うと、男性はさっさと奥へ消えていく。な、なんて理不尽な! あたしは戸惑いながらも、その駄菓子屋に足を踏み入れた。
……はぁ。この先の人生、どうなるんだろう。このまま肩身の狭い思いをしながら歳だけ取って結婚もせず子供もいなく、一生独りで最期は誰にも看取られる事なく孤独死で終わるのかな。……うわ、ありえる。ていうかこのままいくと間違いなくそうなるんですけど!? ていうかそんな人生せっかくここまで育ててくれたおばあちゃんに申し訳なさ過ぎるって! やばいよやばい、なんとかしなきゃ!!
足を止めて俯いていた顔を勢い良く上げる。するとそこには見覚えのない景色が並んでいた。ただし、トンネルの向こうの不思議な町でも妖怪の住むアヤカシの世界でもないのでそこは安心してほしい。
……でも、ここ……どこだ?
ネガティブな将来ビジョンを考えていたせいでどうやら道を間違えてしまったらしい。ええ……嘘でしょう? この歳でまさかの迷子なの? 最悪すぎてマジで泣きそうなんだけど。位置情報を確認しようと取り出したスマホの画面は真っ黒で、ボタンを押してもびくともしない。まさかの電池切れである。弱り目に祟り目、泣きっ面に蜂。はは、最悪すぎてマジ泣ける。
つーか……本当にここはどこなのよ。キョロキョロと辺りを見回すと、昭和感の漂う古き良き建物が目に入った。ガラス戸に貼られているのは日に焼けて茶色く変色したポスター、その前に置かれているのはカプセルに入ったおもちゃが出てくる、子どもが大好きなガチャガチャの機械。ていうか……お掃除戦隊クリーンファイブ? 何これ聞いたことないんだけど。〝地球の悪を掃除します!〟って上手くないから。誰がやるのよこんなガチャガチャ。もしかしてこれが今の子ども達に人気のヒーロー戦隊なんだろうか。時代は変わったなぁ。
〝駄菓子屋六角堂〟
木の板で作られた横長の看板には、習字のお手本のような見事な行書体でそう書かれていた。あたしはその名前を頭の中でもう一度呟く。駄菓子屋六角堂。……ってことはここ駄菓子屋さんなの? あの、ワンコインでたくさんのお菓子が買えるという子どもにとって夢のような、そして全国の親御さんにはお財布に優しい家計の強い味方であると評判の駄菓子屋さん? 古き良き時代、昭和の産物とも言えるあの素敵な駄菓子屋さんなの? へぇ、今でもあるなんて珍しい。あたしは吸い寄せられるようにお店に近付いていく。
しかし、その入り口は閉まっていて覗いてみても中がどうなっているのかまったく見えなかった。誰もいないのだろうか。古い店だし、もしかしてもうとっくに廃業してる?
「……おい」
「ぎょあ!?」
背後から突然男性の低い声が聞こえてきて、私は驚きのあまり奇声をあげて振り向いた。ていうかぎょあってなに。こんな言葉漫画でも見たことないんですけど。めちゃくちゃ恥ずかしい。
「うちの店に何の用だ」
振り向いた先に居たのは、黒地に白いラインの入ったパーカーに細身のスキニージーンズを穿いた背の高い男の人だった。シルバーのピアスがとても似合っている。男性は、えらく整った顔をこれでもかというほど歪め、鋭い眼光であたしを睨みつけていた。
「……え? や、あの、」
あまりの衝撃に青ざめた顔で口をパクパクさせていると、男性の眉間にぐぐっとシワが寄った。更にチッと舌打ちを鳴らす。三白眼も相まって大迫力である。ちょっと! この人怖いんですけど! ヤンキー!? それとも取り立て屋!?
「うちの店に何の用だって聞いてんだよ」
……店? うちの? あたしの頭にはたくさんの疑問符が浮かぶ。
っていうかなんなの、蛇に睨まれた蛙みたいなこの状況。あたしはただ家に帰りたいだけなのに。面接に落ちて迷子になってスマホの充電落ちて、最後は変な男にカツアゲ? あたしの人生ホントなんなの。ゆらゆらと視界が滲んできた。
「……まぁいい。とりあえず入れ」
「え?」
男性が溜息を吐きながら言った。
「ラムネぐらいなら奢ってやる。だからその死にそうな顔なんとかしろ。うっぜーから」
面倒臭そうに言うと、男性は足早にこちらに向かって歩いてきた。ポケットから鍵を取り出し、慣れた手つきであたしの後ろにある扉をガタガタと開ける。店内を隠すように覆っていたカーテンをシャッと開けると、そのまま中に入ってしまった。
え、入れって……ここに? 入口の前で呆然と立ち尽くしていると、さっきの男性が眉間にシワを寄せた不機嫌顔を覗かせた。
「早く入れよ。じゃなきゃ営業妨害で訴えんぞ」
有無を言わせぬ口調でそう言うと、男性はさっさと奥へ消えていく。な、なんて理不尽な! あたしは戸惑いながらも、その駄菓子屋に足を踏み入れた。