それを聞いて、土岐は鈴村の顔を見た。やっぱり駄目かと鈴村は言いたげだ。土岐が電話を切ろうとした時、金井から思いもかけない申し出があった。
「こういう方法はどうかな。扶桑総合研究所が東亜クラブに対して業務委託契約を結ぶ。まあ、実質は君ひとりが協力するということになるんだけど・・・」
という提案だった。
 電話を切った後、土岐は金井のその提案を鈴村に説明した。鈴村は口を丸く開け、ハロウィンのかぼちゃのような頭をすこし傾けて暫時思案した。
「・・・なるほど、機関対機関の契約にするわけか。契約さえ結べば、うちは君を自由に使えるわけだ。・・・悪くないな。機関対機関の契約となると、多少出費は多くなるが、・・・まあ、背に腹は代えられない。それにこれを契機に人が不足したとき、君を自由に使えるというメリットもあるしな。・・・じつはね、派遣会社から人材の売込みが結構あるんだけど、どれも使いものにならない。帯に短し、襷にも短い人材ばかりだ。簡単な事務なら、派遣社員で十分だか、実査力があって、お金のもらえる報告書を書ける人材となると、皆無に近い。うちは、そういう必要なときに必要なだけつかえるフレキシブルな有能な人材が欲しいんだ。ピークにあわせて人材を丸抱えしてしまうと、固定費がかさんで、うちの経理を圧迫するからね」
と鈴村は管理職としての立場から、上からの目線でものを言う。
「そうですね。人材は必要なときだけいればいいわけですからね。抱え込むと、人件費がかさみますからね。・・・販売管理費がふくれて、営業利益を圧迫しますからね」
と土岐は迎合するように話を合わせる。
「そうなんだよ。君はうちでかれこれ3年ぐらいアルバイトの実績があるから、良く理解している。・・・それじゃあ、早速契約書を作って、明日の午後にでも、そちらにうかがうことにするか。明日の午前中にでも、事務局長さんに話を通しておいて貰えるかな」
 思いつきのようにして申し出た金井の提案だが、鈴村はほとんど検討することもなく受け入れてきた。
「承知しました」