と加藤は自分の背後の北欧の大使館員に話題を変えた。
「奴等、ことあるごとに我が国のODAをこき下ろす。『タイドローンは悪だ。アンタイドローンは効率的だ』と青臭いことをのたまう。援助は誰のカネだと思ってるんだ。自国民の税金じゃないか。自国民の血税を同じ自国民の業者に還元して何が悪い。それが官僚の責務じゃないか。大体奴等の国とは援助の金額が一桁違う。我が国では援助関連産業は公共事業と同じで、立派な産業になっているんだ」
と不満気だ。
「それに対する連中の反論は、教科書的で、たしか、『紐付きであるために、援助が有効に利用されていない』というような主旨でしたね。紐付きでなければ援助は制約がないんで、もっとも有効な方法で使用されるとか言ってましたね」
と長谷川が腰を引くような姿勢で加藤に恐る恐る確認すると、
「その議論が成立するのは、被援助国側に有効に使用する能力がある場合に限られる。この国の奴等は何をどう使っていいのかすらわからない。自由に使わせれば、大統領の巨大な銅像を造りかねない。有効に使えないというのが発展途上国の発展途上たるゆえんだ」
と頭ごなしに唾棄する。
「我が国の援助方針が一貫して『現地政府を抱き込んだ見せ掛けのディマンドベース』というのも諸外国の批判の論点になってますね」
と長谷川が、加藤の顔色を窺いながら問い質す。すると、加藤は、
「我が国の援助方針は、我が国の納税者と被援助国たる発展途上国の国民大衆の利害を齟齬なく一致させるものだ」
と主張する。
 長谷川は土岐の方をちらちら見ながら言う。
「でも、大使館とこれまで、二人三脚でやってきた援助プロジェクトには本国業者の在庫一掃の性格を持つものがかなりありましたね。たとえば語学教育プロジェクトとしてLLシステム機器とカッセトテープデッキを百台ほど国立大学に無償援助したでしょ。あのカセットデッキは我が国では、廃棄処分が決定し、メーカーの倉庫に一時的に偶然眠っていたものなんですよ。援助品目として何かないかと本社に打診したら定価の一掛けで調達できるリストにあれが載っていた。そこで国立大学の外国語教育担当の教授と教育省の担当官僚を高級レストランに呼びだして接待しました。あのとき、加藤さんの前任者もおられたと思いますよ」
と加藤に同意を求めながら、