「プライベートも隠しだてするなよ。調査に協力してくれないと、満足な調査ができない」
 窓外の脇道にスコール除けの半透明のプラスティックの屋根がある。その木製の支柱にヒスイカズラの淡い緑の茎が巻鬚で絡みついている。薄い紫の花が密集して咲いている。茎の太さと不釣合いなほど花弁の塊が大きい。
 土岐は花弁に見とれていた。
 白い陶磁器の大皿が二枚運ばれてきた。目玉焼きの黄身がはちきれそうにこんもりと盛り上がっている。毒々しいほど黄色い。ベーコンはカリカリで縁が黒く炭化している。トーストは真っ黒な焦げ目がすじ状にまばらに走る。縁はあまり焼けていない。
「取引関係のある企業とか個人は君のアドレスを知っているよな」
「まあな。おれの名刺に書いてあるからな」
「名刺のメールアドレスは、パソコンだろ?」
「そうだ。携帯のアドレスは公表してない」
「さっき、携帯電話で脅迫のメールを受け取ったと言ったが、だとすると、脅迫者は、君の携帯のメールアドレスを知っている者に限定される?」
「脅迫メールはパソコンのアドレスから転送されてきたものだ」
「とすると、容疑者は、パソコンのアドレスを知っている者ということだな」
 長谷川は土岐の言うことに興味を持たない。自分のことを話すのに夢中だ。
「アドレスは個人用と事務所用の二つある。どっちも携帯電話に転送されるように設定してある」
 長谷川の話は滔々と続く。落語好きで演劇のサークルにも所属していたせいか、語りに感情が籠っていて臨場感がある。調査する土岐の立場からすると、それはそれで有難い情報提供ではあるが枝葉が余りにも多い。しかも、主観的だ。土岐は長谷川の言うことを一々、有用な情報とそうでない無駄話に分類し、その上で客観情報に翻訳しなければならない。不快さが募る。
「おまえを呼ぶことになったのは外務大臣訪問関連のメールが本社から送信されてきたからだ。来週の月曜の夕方到着する。一泊して火曜の夕方離陸する」
と天井に目線を上げながら長谷川の冗長な話が続く。
 土岐はキーワードだけ記憶にとどめて聞き流していた。いらいらしていた。重要なことだけを言ってもらいたい。土岐は耐えた。
 ついに土岐は長谷川の冗漫な話に耐えられなくなった。
「なあ、要点だけはなしてくれないか」
 長谷川はむっとしたように口をとがらせる。
「おれは、事案の背景を話している」