「・・・よく見てみろ。この画像の首筋の黒い小さな塊は、・・・そうすると、今田が着ていた黒いパーカーのフードの一部ということか?」
「画素が少ないんで、真田の長髪の塊のようにも見えるが、首の下のほうから盛り上がってるんで、フードと見たほうが自然だ」と言う土岐の指摘に宇多は腕組みをして考え込んだ。
「続けてもいいですか」と土岐は宇多の顔を覗き込んだ。宇多は無言のままうなずいた。
「今田は上野地下街を含めて7か所で同じ姿勢で防犯カメラに自分の姿を証拠撮りさせた。警察はこのトリックに簡単に引っかかった。警察のほうも、これ幸いとひっかかってやった。一人ぐらい変だと思った刑事がいてもおかしくない。しかし、被害者も加害者も社会の底辺をさすらう人間だ。社会の注目度も低い。せっかく証拠がそろってるのに、それをひっくり返して真実を暴き出したところで、警察の手柄にゃならん」
「しかし今田がスポーツセンターに行くのが目的であれば、バスでもよかったはずだ」
「いや、殺害現場を隅田公園のスポーツセンターに決めたため、真田のボウガンの試し打ちは隅田公園のバス停近くのペンシルビルとせざるを得なかった。事前アンケートで真田が、ネット喫茶から現場までの移動ルートをバスと書き込んだため、今田の移動は地下鉄にせざるを得なかった。だから今田を浅草から隅田公園まで20分も歩かせることになった。検察の説明では、〈ボウガンの試し打ちをする隅田川の適当な土手を探しながら歩いた〉としてるが、今田が歩いた江戸通りから、隅田川の土手は距離があり、とても適当な場所を探しながら歩いたという話は成立しない。少なくとも、江戸通りから隅田川の土手は見えない。今田は最初から隅田公園のスポーツセンターを目指してたとしか考えられない。だとすると、真田がアンケートで答えたバス利用が正解で、それが今田にとって唯一の合理的な移動ルートだ。最初からスポーツセンター目指すんなら、上野から地下鉄利用して、浅草から20分も歩くっちゅうのはどう考えても不合理だ。隅田公園のバス停で降りれば、5分程度でスポーツセンターにたどりつく。しかし、今田は地下鉄を利用した」
「とすると、そういう指示を出したのは梨本ということになる。しかし梨本は母校の大学付属病院に出勤していた。だとすると今田は梨本が書いた絵図通りに動いたということか?」