「とりあえず、僕の仮説を言います。まず発端は母子家庭にそこそこ優秀な息子がいたこと。この息子が医学部を志望した。しかし、授業料の安い国公立は合格せず、授業料の高い私立大学に入学した。このとき多額の寄付金と入学金と授業料を借金した。貸与奨学金を受けたんで卒業時に億に近い借金ができた。さらに国家試験に合格し、医師免許取得後、クリニックの土地と建物、高額医療機器を購入したんで、借金はさらに膨れ上がった。クリニックの立地が悪かったんで、診療報酬だけじゃ借金返済が苦しくなって、大々的に治験を請け負うようになった。治験ボランティアの中に今田がいた。今田は泪橋近辺の木賃宿の住民を積極的に紹介し、千寿南クリニックの収益に貢献した。治験ボランティアは一つの治験が終了すると一定期間、他の治験に参加できない。また同時期に重複して治験に参加することもできない。しかし、治験ボランティアが不足したとき、院長の梨本は重複参加や連続参加を隠蔽し、複数の異なる治験ボランティアがいるかのような偽装を行った。同時に保険の不正請求も行った。今田は最初は何も知らずに重複治験や連続治験に参加してたが、ほかの病院の治験に参加して、それが不正であることを知るようになった。今田は治験コーディネーターの平尾に偽装治験を知ってることをほのめかした。平尾はそのことを院長の梨本に告げた。次第に梨本は今田の存在を恐れるようになった。今田はより多くの重複治験や連続治験を要求するようになった。治験関係の不正や保険請求の不正が露見すれば、最悪、医師免許の剥奪も考えられる。重複治験で飲み合わせの悪い錠剤を飲めば、著しい健康被害をもたらす恐れがあるからだ。実際、今田の健康状態は悪化し、顔色も悪くなった。健康状態が極端に悪い者は治験不適格になる。梨本は治験ボランティアをネットで募集したのと同じ手口で、今田殺害の容疑者として逮捕されるアルバイトを募集した。表向きはクロスボウの試し打ちのアルバイトで、アルバイト代は3万円とした。1万円では多数の応募者を集められない。3万円より高額だと、怪しまれる。募集のアンケートには、身長と体重、同居人、職業、喫煙歴などを記入させ、体重70から80キロ、身長170センチ前後、独身、正業のない者、喫煙している者という条件の合致している真田をピックアップした」
そこで宇多が割り込んできた。
そこで宇多が割り込んできた。