「・・・こちらがマスク本体で、この内側にフィルターを装着して使用します」
 土岐が想像していたものよりはるかに大きなものだった。顔の半分ほどを覆うサイズだ。
「ずいぶん、・・・大きなもんですね」
「・・・まあ、運動するわけですから風邪のマスクのようにぴったりしていると呼吸が苦しくなります。この白いフィルターが微粒子を吸着して汚れたら取り替えます」
「カラーは、この黒だけなんですか?」
「中のフィルターは白ですが本体は交換しないので、汚れが目立たないように黒が基本です」
「ところで、御社のポスシステムでは、購入者の特徴もデータ化されてます?」
「わが社はコンビニと違って、購入者の特徴はレジでインプットしていません」
「最後におうかがいしますが、クロスボウの殺傷能力はどの程度なんですか?」
「人間となると、心臓にでも当たらないと死なないんじゃないでしょうか」
「人間の背中から心臓を射貫いて、貫通することはないですか?」
「さあ、どうでしょう。よほど至近距離から狙えば、貫通することもあるかもしれませんが」
 そこまで聞いて、土岐は席を立った。見達は、テイクだけでギブはないのか、というような顔つきで土岐を見送った。土岐は詫びのしるしに深々と頭を下げた。
 JR御徒町駅のガードをくぐり、昭和通りに出た。日比谷線で仲御徒町から再び南千住に向かった。十一時過ぎに南千住駅についた。千寿南クリニックに向かうと、入り口前にシルバーメタリックのライトバンが止まっていた。ボディに、大竹メディカル(株)とペインティングされている。その下に一回り小さいフォントで、医療用機器専門商社と書かれている。
 土岐は昨日入った駅前の喫茶店小塚原で、観音開きの窓越しに窺うことにした。アメリカンを注文し、伝票の金額を小銭で用意し、いつでも飛び出せる準備をした。なめるようにコーヒーを飲んでいると、電話がかかってきた。液晶画面を見る。知らない電話番号だ。
「・・・都バスを運転している者ですが交通局の方からこちらの番号にかけるようにと」
「・・・運転手さんですか。いま、どちらですか?」
「・・・今日は非番なんで、自宅です」
「ご自宅は、・・・どちらですか?」
「・・・田端です」
「休みのとこ申し訳ないんですが、ちょっと、お話を伺えないでしょうか?」
「・・・どんな話ですか?」