「すると合計で、年間10万か20万程度ということですか?」
「・・・その程度だと思います」
「今田さん自身はボランティアとして年間どれくらい軽減費を受け取っていたんですか?」
「・・・多くてせいぜい、五万円から十万円程度だと思います」
「でも今田さんは、去年は日雇をしてなかったみたいで。それでも普通のアパートに入居できるだけの金額を貯めたらしいですよ」と土岐が言い終えないうちに女は立ち上がった。
「・・・すいません。家族が心配するので、・・・」と言ったなり店を出ていった。口をつけていないコーヒーが二つ残った。土岐は無理してコーヒーを二杯飲みほし、帰宅した。
 日暮里経由で蒲田に帰宅してすぐ、千寿南クリニックの梨本和正を検索してみた。最初に出てきたのは千寿南クリニックのホームページだ。そのつぎに宝徳大学付属病院の内科診療担当が出てきた。梨本は木曜日の午前中の担当になっていた。ついでに梨本の履歴を見ると、宝徳大学医学部卒とある。宝徳大学付属病院の電話番号をスマートフォンに登録した。
 翌朝、宝徳大学附属病院に電話した。一月十七日に梨本医師が出勤したかどうかを確認するのが目的だった。さんざん、たらいまわしにされたが、最終的に梨本の出勤を確認できた。それから自宅近所のクリニックに向かった。九時ちょうどに駅前商店街裏のクリニックの自動扉を抜けると、待合室に老婆がひとり、ぽつんと座っていた。五分も待つと、診察室に名前を呼ばれた。三畳もないような狭い診察室に入ると、旧知の開業医が待っていた。
「つかぬこと伺いますが、こちらのクリニックでも治験やってます?」
「・・・たまに、頼まれてやっていますが、それが何か?」
「知人に治験ボランティアで生活しているような人がいるんですが、それって可能ですか?」
 医者はどんぐり眼をさらに丸くする。なぜそういう質問をするのか理解しかねている。
「短期的にはできないこともないかもしれないけれど、ずっと、というのは無理でしょう」
「短期というと・・・どのくらい?」
「入院治験というのがあって、半月入院で十五万円ぐらいでるから生活できるでしょう」
「じゃ、それ繰り返せば、ずっと、それだけで生活してゆけるんじゃないんですか?」
「いや。治験の規約では治験が終わった後、一定期間、ほかの治験には参加できない」
「一定期間というのは、どれくらい?」