「そういう分野は専門じゃない。警察なら人もカネもあるからサイバー犯罪対策室あたりでやるだろうが。警察は監視カメラの映像をたどって証拠固めして真田が主張している線の捜査を本腰を入れてやっていない。多少やっているかもしれないが検察のストーリーに不都合なものは湮滅しているだろう。事件当日の都バスの運転手に証言を取りに言っているかもしれないが、とりあえず、証拠も証言もそろったから、無駄な捜査はしないということだろう。経費節減ということだ。社会的にまったく注目を浴びてないつまらない事案でもあるし」
「都バスの運転手には当たってみるつもりですが、そもそも真田はどういう人物ですか?」
 宇多は丸い視線を応接室の窓の外に泳がせた。
「昨日も言ったが四流大学を六年かけて卒業し、飲食関係のブラック企業に就職し、三か月でやめている。それから、フリーター人生だ。その後、父親が脳梗塞でなくなり、入院費がだいぶかかったそうだ。二年前、今度は母親が心筋梗塞で入院し、すぐ死んだ。日野あたりに小さな一戸建てがあったが相続時に売却し、両親の借金を返したら、ほとんど残らなかったそうだ。真田はしばらく、高円寺の安アパートに住んでいたが、昨年秋から、家賃が払えなくなって、最初は脱法ハウス、最近はネット喫茶を定宿として、バイトのない日はコンビニやファストフード店のごみ箱をあさり、夜はネット喫茶で懸賞サイトやアンケートポイント稼ぎでしのいでいたそうだ。ネット喫茶の住み込み従業員をかたって祖父母、両親、四人兄弟の八人家族を偽装して、懸賞サイトやアンケートサイトに百ぐらいのマイページを持っていたそうだ。図書券やら商品券やら優待券がネット喫茶の真田宛に届くから好奇という店では有名人だった。わずかな金額だが御徒町の金券ショップで換金していた。でも逮捕時の所持金は四千三百十一円だった。高円寺にいたときに口座を作ったネット銀行には多少残高があったようだ。カネのないときは一晩中ネット喫茶のフリードリンクでしのいでいた」
 土岐は腕組みをして聞いていた。他人事とは思えない。
「それで、被害者の今田っちゅうのは?」