「要するに、検察は動機を解明できなかったんでしょうね。もし、ボウガンの暴発のようなものであれば、傷害致死だから量刑もだいぶ軽くなるんでしょうね」
「・・・それ、真田に言ってみたんだが、現場には行っていないと強硬に否定している。未必の故意でも、殺人は殺人だ。傷害致死なら、量刑も半分以下になるんだが、・・・」
「それにしても、検察はなんで動機の解明をしなかったんでしょうかね。試し打ちなんか、子供だましの動機じゃないですか。そんなんで公判を維持できるんでしょうかね」
「・・・そのへんが、こっちのつけ込むところだ。要するに、故殺であれば、ボウガンを捨てる前に指紋を消すか、最初から手袋をして扱っていたはずだ。それとも指紋を消し忘れたか、慌てていて指紋を消せなかったか?・・・要するに、検察は裁判官が一番受け入れてくれそうなストーリーをねつ造したんだろう。裁判官は所詮世間知らずだから、検察の作文も起承転結や文法表現が正確で、規矩準縄に則っていれば、忖度して気を利かせて主張を受け入れるやつが多い。どうせ裁判官と検事のやつらは仲間なんだから、・・・」
「真田はなんでボウガンの試し打ちでわざわざバスに乗って狭いビルに行ったんですか?」
「それがポイントだ。昨日渡した資料の脚注にも書いておいたが、なんでもネットの商品モニターアンケートに当選して、ボウガンの試し打ちを三万円で依頼されたそうだ。そうそう、ボウガンというのはある会社の商標登録名で、正式な商品名はクロスボウというそうだ」
「そのクロスボウが、凶器、・・・ということですか?」
「・・・そう。その矢が今田の背中から心臓に突き刺さっていた。真田の指紋付きだ」
「よほど運の悪いやつですね。偶然背中から心臓に命中した、・・・ということですね」
「・・・そのへんも、反論できるな」と宇多は腕を組む。
「いずれにせよ真田の主張を証明するためにはアンケート提供者を探せばいいわけですね」
「秘書に一日だけネットサーフィンさせてみた。そういうサイトは見つからなかった」
「そうじゃなくって、・・・真田が使ってたネット喫茶のパソコンから、IPアドレスをたどって、サーバーのアクセスログを特定しなかったんですか?」