@お手数で申し訳ありませんが、昔、個人的に非常にお世話になった元吹田工場長の坂本茂さんと連絡を取りたいのですが、連絡先をご教授願えないでしょうか。土岐明@
 次に吉野幸三が保木間の碁会所で話していた、〈キャノン機関〉〈M資金〉〈隠匿退蔵物資〉についてネット検索してみた。
〈キャノン機関〉は米国のキャノン陸軍少佐が統括していたGHQ参謀第二部直轄の秘密諜報機関のことだ。日本人工作員組織を傘下においていた。廣川弘毅がキャノン機関と関係を持っていたとすれば、日本人工作員組織の一員であったのかも知れない。キャノンは1981年テキサス州の自宅ガレージで銃弾で死んでいる。自殺か他殺かはいまだに不明となっている。この辺の尋常ではない死に方は廣川弘毅に似たものがある。秘密諜報員が犯人であれば、他殺を自殺と見せかけることは、それほど困難なことではないだろう。
〈M資金〉はGHQが極秘裏に運用していたとされる秘密資金だ。MはGHQの経済科学局長だったマーカット少佐の頭文字である。マーカットは日本銀行地下金庫を押収し裏資金をこしらえた。廣川弘毅が総会屋から足を洗ったのは、時価数十兆円に上るとされる、この資金を流用できるようになったからなのか。
〈隠匿退蔵物資〉は最後の戦時内閣、鈴木貫太郎内閣が、本土決戦に準備した時価数十兆円の物資をさす。一部は実際に大物政治家の手に渡っている。東京湾の越中島海底からも膨大な貴金属が発見されている。ヒロポンもその一部である。廣川弘毅がこの隠匿退蔵物資を探し当てて、総会屋から足を洗ったということなのか。
 いずれの事件も土岐が生まれる以前の話である。終戦直後の治安も警察も混沌としていた頃の眉唾めいた物語ではある。しかし、こうした闇事件を背景にその後、政商となり、政治家と結びついて行った実業家も多い。衆議院議員に当選したものの、自由党と日本民主党の保守合同以降、政界の裏舞台でフィクサーとして暗躍したとされる船井肇にはその臭いがしないでもない。廣川弘毅もそうした関係を持っていたとしても不思議ではない。
 ブランチをとりながら、土岐はパソコンのメールに目を通し続けた。
 神州塗料のIR室からのメールが来ていた。