「刑事さんの人脈と信用が利用できるので、願ったり叶ったりです」
「・・・よし、決まった」
と両手を叩き、海野はジョッキを持ち上げて乾杯を求めてきた。

総会屋レジェンド(九月二十五日土曜日)

 翌土曜日、〈総会屋〉を検索エンジンで検索した。総会屋の定義、歴史、分類、法規制などの項目が検索できた。数人の大物総会屋の履歴が詳細に紹介されていた。そうした著名な総会屋の中に、廣川弘毅の名前はなかった。
 改めて廣川弘毅でネット検索すると、たった一件しかヒットしなかった。〈有限会社 開示情報社会長〉となっていた。
 土岐は、別の検索エンジンでもう一度、〈総会屋〉を検索してみた。ヒット件数が2万6431件あった。最初のほうにヒットした記事を丹念に読んで行った。
 昭和五十六年と平成九年の商法改正で、1980年代に六千人いた総会屋は三百人以下に減少している。現在でも残っているのは暴力団関係者が多く、その他は外見上は企業と取引関係のある正業についている。正業についている者はもはや総会屋とは言えないが、いつでも豹変する要素を持っている。
 企業側も過去半世紀近くにわたって秘匿した企業の醜聞や人間関係を熟知しているので、無碍に与党総会屋を完全に切り捨てることができなかった。
 企業関係の正業としては企業がアウトソーシングした業務が多い。例えば、夜間の警備、文房具類などの備品調達、天然水やコーヒーの供給、植栽のレンタル、フロア・トイレ清掃、文書・貨物の配送、手形取立、クレーム処理、業務調査などがある。
 総会そのもののアウトソーシングとしては、総会の司会や会場警備およびプレゼンテーション用のパワーポイントの作成のようなものもある。
 従来と同様の業態としては、新聞屋と総称される雑誌発行、業界新聞の発行、企画出版物の発刊などがある。〈開示情報〉という雑誌はこの業態に属する。手口としては雑誌の買い上げや広告出稿や裏広告と呼ばれる広告賛助金などだが、相場よりはるかに高額な支出は、商法で禁じられている利益供与と認定されるリスクがあるので、相場並みとせざるをえない。暴利が得られないため、これで食べて行ける人数が減少した。
 しかし総会屋は壊滅してはいない。毎年のように、警察に摘発されている。その他の大物総会屋も少なくともネット上の記事では既に物故している。