伯祖父の葬式はすぐに行われた。
 葬式といえば誰か一人くらいは泣いたり、悲しんだりするものと思っていたが、そんな人は一人もいなく、それどころか真顔か、笑顔で「良かったな」「幸せだろうな」などと言っている。
 わたしもその集団の中にいると思うと嫌気がさしてくる。
 でも式後、喪服を着た伯祖父の古い友人らしき人達とすれ違ったが、その人達は他の人とは違い、わたしに『変』とは言わなかった。だから何故言わないのかと訊くと、首を傾げ質問の趣旨を理解していないようで「私が君に『変』と言わないと何かあるのかい?」と逆に訊かれた。
 わたしが訊きたいくらいなのに……。
 帰宅後、疲労が限界にきていたため自室に入るなり、着替えもせずにベッドにダイブした。
 しばらく休むと、バックから伯祖父から貰ったあのカードを取り出し、眺め始める。
 カードには大きく文化観光部という文字とその下には小田 啓太郎という名前が記載されている。
 「文化……観光部?」
 ネットで検索してみると国の行政部門と出てきた。
 ということは伯祖父は昔公務員で、文化観光部という部門で働いてたということなのだろうか。
 しかしわたしには断言できない。何故ならわたしは伯祖父の本名を知らないから。
由美さん夫妻に訊いても答えてはくれなかったし、そもそも親戚だからといって同じ苗字とは限らないからわたしと同じかもわからない。
 「やっぱり。あの日、訊いておけば良かったな」
 そうすれば少しは伯祖父のあの遺言に確証が持てたのだろうけど、今更どうしようもない。
 それに今一番引っかかっているのはそこではない。
 伯祖父はテレビの電気がプツンと切れるように突然死んだ。この最後に近い死の状態を作り出す物をわたしは知っている。それは『Sephirot』だ。
 なぜ『Sephirot』を何年も拒み続けてきた伯祖父が飲み続ける人と同じ死に方をしたのだろうか。わからない。
 すると突然わたしはこれ以上手を出していいのか不安にとらわれた。
 確かに『Sephirot』は今や『EDEN』と同じく国になくてはならない存在。それを疑っているのだから国を揺るがすことにわたしは首を突っ込もうとしてるのかもしれない。
 わたしは下手なことをしてまた居場所がなくなるのが怖い。
 それに、これ以上は前に進んではいけないとわたしの中の何かが全力で伝えている。でもわたしのこの状況を作り出した伯祖父の遺言の通りにすれば何が起こるのか気になって仕方がない。
 「軍の基地……」
 災害時、人命救助等をすることになっているのが軍だ。確かに昔は災害があったらしいがもうここ二十年以上災害は起こってなく、今では税金の無駄とまで言われている存在。
 軍の基地の土地は広大で東の海岸をほぼ全て敷地としている。
 そんな場所に何があると言うのだろうか。それに最終的に向かえと言われた『シマ』とは何だろうか。
 「どうしよう……」
 徐々にわたしの中の不安が好奇心に染まっていく感覚があった。