会見が終わり、会場を後にするところを映し終わるとテレビはスタジオのキャスターや評論家たちを映し、色々と憶測を話し始める。
 それを見ているとノックする音がしてドアが開いた。
 「ただいまー。なんなのあのおっさん! めちゃくちゃイラつくんですけど!」
 「まあまあ。坂井がガツンと言って黙り込んでいたし、いいんじゃないですか?」
 会見で質疑応答をしていた女性研究員の花宮さんを研究の説明をしていた男性研究員の荒木さんがなだめる。ちなみに二人は付き合っている。
 その二人の後ろから車椅子に座る坂井さんと男性技術者の清水さんがその車椅子を押して入ってくる。
 「でもあの顔は面白かったな。あのアホ面。傑作だろ」
 「ええ。それよりサクラさん、身体の調子はどうですか? 少しでも悪ければ言ってください。調整しますので」
 ソファに座っていたわたしは作り笑いをして首を横に振る。
 「あっ、えっと大丈夫ですよ。それどころか違和感一つないので」
 わたしは立ち上がり機械となった身体を見て、動かしてそう言った。
 「そうですか。それは良かったです」
 「何カッコつけてんだよ。こいつはまだ未成年だぞ。捕まりたいのか?」
 「いや、そんなつもりで言ったわけじゃないです!」
 清水さんと楽しく話す坂井さんだったが、何年もあのバーチャル世界にいた影響で身体をまだほとんど動かすことは出来ず後ろを振り向くことすら出来ない。
 「じゃあ愚痴も言い終わったし、荷物持ってさっさと帰りましょうか」
 花宮さんの掛け声で皆少ない荷物を持つと部屋を後にする。
 その際わたしは清水さんに車椅子を押すのを代わってもらった。
 すると荒木さんが思い出したように「先に行って車、入り口のところにとめてきますね」と言って花宮さんと清水さんを連れて先に行って行く。
 三人の後ろ姿が見えなくなると坂井さんは「どんな風の吹き回しだ?」と言った。
 「お前、こんなことする性格じゃなかっただろう」
 「いや。わたしだってたまには――」
 「俺の身体。これは俺が研究者であるが故にこうなっただけだ。だからお前が責任を感じることじゃないって前にも言っただろうが。いい加減そうやって俺を見て落ち込むのはやめろ。そんな目で見られるこっちの気持ちにもなってみろ。気分悪すぎだからな」
 「ううん。違うの」
 わたしは坂井さんの動かない後頭部を見ながらそう言った。
 「あー。でもやっぱりたまに、わたしがもっとはやく行動していれば坂井さんの症状がここまで重くはなってないかもしれないって思うことがある」
 「だから考え無くていいって――」
 「でも今は違うの。今はただ坂井さんにありがとうって言いたいだけ」
 「はぁ?」
 足を止めて坂井を後ろから優しく抱きしめる。
 「嬉しかったんです。わたしのこと人間だって言ってくれて。あれって会見の時わたしを守ってくれたってことですよね」
 「あれは、ああ言った方があいつらに効くからってだけで、他に意味なんかねぇよ」
 「それでもわたしは感謝してます。ありがとうございます……」
 返事は返って来なかった。
 でもそれが返事なのだと思った。
 わたしはまた車椅子を押して先に進む。
 あの世界よりもさらに先の見えない道をわたしはこれから進むことになる。
 けど今度は一人じゃない。それにこの世界に来て知ったのだ。
 『変』は『普通』なのだと。
 だからわたしはわたしのしたいことをする。
 ただそれだけのはなし。