翌朝。わたしは制服を着る。
 準備したいつもは使わないリュックを持って一階へ。
 「もう行くの?」
 「うん」
 待ち構えていた由美さんは心配そうな顔をみせたが、反対にわたしは笑顔だった。
 玄関で靴を履いているとリビングから陽一さんも出てくる。
 「これを持っていきなさい」
 押し付けるように陽一さんが渡してきたのは赤い布の袋に刺繍の入った物だった。
 「何これ」
 「御守りだ。サクラの行く先に幸あらんことを祈る。頑張ってきなさい」
 それだけ言い終わると陽一さんは背を向けてリビングを戻ろうとしたのでわたしは立ち上がって二人に言った。
 「いってきます!」
 陽一さんは一度立ち止まり、振り向かずにうなずくとリビングへ行ってしまった。
 「ほら、陽一さん口数少ないから、こういうこと気恥ずかしいんでしょ。でもわたしはちゃんと言うわ。いってらっしゃい」
 「うん。いってきます」
 ひょっとしたら、最初で最後になるかもしれない見送りの言葉。
 血筋なのかもしれないけど、なんか気恥ずかしい。
 それでもわたしは外に出る。
 どんなに大きく硬く頑丈な殻でも穴が一つでもあれば外に出て自由になれる可能性がある。だから外は危険だなんて思って殻に閉じこもるくらいならわたしはその穴が空いている可能性に賭けて動き出す。
 それにわたしはもう多くのものを背負ってるから後には引かない。
 わたしはわたしを変えることも厭わない。