子供の頃からだ。
わたしが『変』だと言われるのは。
学校にいようが、街中だろうが、家だろうが関係ない。全く喋ったことも会ったことすらない人にも言われる。
わたし以外の人がわたしのことをそう言うのだ。ただその言い方が人それぞれなだけ。
わたしの知らない言葉と人の壁をずっと感じていた。それでも一度として自分で命を絶とうとは思わなかった。いや、今思えば、思うことすらないことがこの世界の『普通』だったのかもしれない。
世界に慣れてしまったわたしはその日も同じように白く、きれいな教室のドアを勢いよく開く。
その音を聞いたクラスメイト達は一度こちらを見るとすぐに目を逸らしてそれぞれのグループで話を再開する。
この皆の反応すらわたしにとっても、彼らにとってもただの日常の一ページでしかなかった。
教室の真ん中の窓側の席に座ると鞄から教科書等々を今日使う分だけ取り出し、机の中にしまった。
こんなわたしにも唯一友達と言える存在がいる。
「おはよ。サクラ! 今日も一段と変な雰囲気纏っているねえ」
「そういうあなたも十分変だよ。おはよう、ナリ」
彼女の名前は千代田 ナリ。
かなり明るい性格でいつも悩みなんてなさそうな顔をしている。そんな彼女も例外なくわたしのことを『変』だと言う。しかし彼女は変だからこそわたしに興味を持ったらしい。
わたしに近づくだけでも彼女も『変』の内に入ると私は思っているけどナリはわたし以外から一度も『変』と言われたことがないのだそう。
このことから分かったのだが、どうやらあくまでも対象は私だけのようなのだ。皆の言う『変』がなんなのか詳しくはわからないが、それはわたしと『変』が、『変』=[わたし]のように公式が立てられているようにも感じた。けどそんなことがあるわけがない。何故なら公式に入るものは唯一無二のものではなく、グループで分けられたもので無ければおかしいのだから。
ナリは前の自分の席に座るとすぐに後ろを向いてまたわたしに話しかけてくる。
「ねね、今日さ学校終わったら遊びに行こ!」
「まだ今日は始まったばかりだよ? 流石に気が早過ぎない? それに未成年のわたしたちが行ける遊べる場所なんて家か公園しかないよ?」
わたしの反応にナリはちっちっちっ、と人差し指を横に振りながら得意げに語り出す。
「公園だって立派な遊びですぞー! それに家はサクラ、テレビゲームしかしないじゃん。それになんか強いし」
おそらくナリは過去に一度だけ家で遊んだ時、数個やった対戦ゲームで全てわたしに完膚なきまでに負かされたことをまだ根に持っているのだろう。
「あー。あの時はごめん。手加減出来なくて。今度はするから」
「手加減なんてされたらわたし、絶対怒るよ? とにかくゲームは楽しく出来なそうだから却下! って事で公園行こうよ!」
どうにか家にいかせようと策を練ったが全く浮かばず、結果公園に決定した。
不満はあったが嫌ではない。
「わかった。公園に行くよ」
「やった! あーあ。早く大人になりたいよ〜」
遊ぶ場所が決まったことでなりはご機嫌な表情で不満を漏らした。
「大人はずるいよねー。未成年のわたしたちは放っておいて、自分たちだけ『EDEN』で遊んでいるんだから」
ナリが不機嫌になるのも無理はない。『EDEN』は大人達が作った娯楽施設の名称で、地方都市にも存在しているが何故つくられたのか、いつからあったのかなどはわたしたちには不明なことが多い。そもそも『EDEN』の中がどうなっているのかもわたしたちにはわからない。
しかし一点だけ、分かっていることがある。それが未成年のわたしたちが入ることは許されない、ということ。
何故許されないのかすら不明ではあるけど、そもそも本当に娯楽施設であるのかも曖昧な存在だ。だから昔幼い頃に『EDEN』には何があるのかと両親に聞いたことがある。
その知ってはいけない、パンドラの箱のような異様なものに昔のわたしは恐怖よりも好奇心の方が優ってしまったのだ。
けれど両親は何も答えてはくれなかった。それどころかその翌日、目を覚ますと両親は蒸発していた。
その後のわたしの人生で『EDEN』という言葉を使うことは無くなった。
不意に思い返してみると、このことがあってからだった気がする。わたしが『変』と言われるようになったのは。
わたしが『変』だと言われるのは。
学校にいようが、街中だろうが、家だろうが関係ない。全く喋ったことも会ったことすらない人にも言われる。
わたし以外の人がわたしのことをそう言うのだ。ただその言い方が人それぞれなだけ。
わたしの知らない言葉と人の壁をずっと感じていた。それでも一度として自分で命を絶とうとは思わなかった。いや、今思えば、思うことすらないことがこの世界の『普通』だったのかもしれない。
世界に慣れてしまったわたしはその日も同じように白く、きれいな教室のドアを勢いよく開く。
その音を聞いたクラスメイト達は一度こちらを見るとすぐに目を逸らしてそれぞれのグループで話を再開する。
この皆の反応すらわたしにとっても、彼らにとってもただの日常の一ページでしかなかった。
教室の真ん中の窓側の席に座ると鞄から教科書等々を今日使う分だけ取り出し、机の中にしまった。
こんなわたしにも唯一友達と言える存在がいる。
「おはよ。サクラ! 今日も一段と変な雰囲気纏っているねえ」
「そういうあなたも十分変だよ。おはよう、ナリ」
彼女の名前は千代田 ナリ。
かなり明るい性格でいつも悩みなんてなさそうな顔をしている。そんな彼女も例外なくわたしのことを『変』だと言う。しかし彼女は変だからこそわたしに興味を持ったらしい。
わたしに近づくだけでも彼女も『変』の内に入ると私は思っているけどナリはわたし以外から一度も『変』と言われたことがないのだそう。
このことから分かったのだが、どうやらあくまでも対象は私だけのようなのだ。皆の言う『変』がなんなのか詳しくはわからないが、それはわたしと『変』が、『変』=[わたし]のように公式が立てられているようにも感じた。けどそんなことがあるわけがない。何故なら公式に入るものは唯一無二のものではなく、グループで分けられたもので無ければおかしいのだから。
ナリは前の自分の席に座るとすぐに後ろを向いてまたわたしに話しかけてくる。
「ねね、今日さ学校終わったら遊びに行こ!」
「まだ今日は始まったばかりだよ? 流石に気が早過ぎない? それに未成年のわたしたちが行ける遊べる場所なんて家か公園しかないよ?」
わたしの反応にナリはちっちっちっ、と人差し指を横に振りながら得意げに語り出す。
「公園だって立派な遊びですぞー! それに家はサクラ、テレビゲームしかしないじゃん。それになんか強いし」
おそらくナリは過去に一度だけ家で遊んだ時、数個やった対戦ゲームで全てわたしに完膚なきまでに負かされたことをまだ根に持っているのだろう。
「あー。あの時はごめん。手加減出来なくて。今度はするから」
「手加減なんてされたらわたし、絶対怒るよ? とにかくゲームは楽しく出来なそうだから却下! って事で公園行こうよ!」
どうにか家にいかせようと策を練ったが全く浮かばず、結果公園に決定した。
不満はあったが嫌ではない。
「わかった。公園に行くよ」
「やった! あーあ。早く大人になりたいよ〜」
遊ぶ場所が決まったことでなりはご機嫌な表情で不満を漏らした。
「大人はずるいよねー。未成年のわたしたちは放っておいて、自分たちだけ『EDEN』で遊んでいるんだから」
ナリが不機嫌になるのも無理はない。『EDEN』は大人達が作った娯楽施設の名称で、地方都市にも存在しているが何故つくられたのか、いつからあったのかなどはわたしたちには不明なことが多い。そもそも『EDEN』の中がどうなっているのかもわたしたちにはわからない。
しかし一点だけ、分かっていることがある。それが未成年のわたしたちが入ることは許されない、ということ。
何故許されないのかすら不明ではあるけど、そもそも本当に娯楽施設であるのかも曖昧な存在だ。だから昔幼い頃に『EDEN』には何があるのかと両親に聞いたことがある。
その知ってはいけない、パンドラの箱のような異様なものに昔のわたしは恐怖よりも好奇心の方が優ってしまったのだ。
けれど両親は何も答えてはくれなかった。それどころかその翌日、目を覚ますと両親は蒸発していた。
その後のわたしの人生で『EDEN』という言葉を使うことは無くなった。
不意に思い返してみると、このことがあってからだった気がする。わたしが『変』と言われるようになったのは。