桜フェス二日目。表のステージと観客席は最高潮に盛り上がっている。
そんな中俺たち四人はステージ裏で、最後のやり取りをしていた。
「え、まじ⁉ 俺らもいいのか⁉」
「春哉の言うとおりだよ! 晴翔はともかく俺らは絶対出ないほうがいいって!」
春哉とみくるがあわあわするのを、俺とあおいさんは何とか落ち着かせていた。
「俺が出てほしいんだ。二人がいなかったら俺はずっと進めないままだった。さっき聞かせた曲も二人がいたからできたものだ」
俺は必死に頭を下げる。
「僕からもお願い。紹介の時だけでも出てくれないかな……?」
あおいさんも俺の隣でお願いをしてくれる。
二人は照れたような困ったような顔をして、そして、笑った。
「まぁ、普段晴翔に頼ってばっかりだもんな俺たち。はるコンビとして出てやるよ! ただし、紹介の時だけだからな! ほらあおいさんも顔を上げて!」
「俺もあおい兄さんと晴翔のためなら紹介の時出るよ! でも演奏の時は俺たちはいないからな、頑張れよ!」
そう言って二人はこぶしを突き出してきた。俺とあおいさんも二人に合わせてこぶしを突き出した。そして三人とも俺に顔を向ける。その合図に、俺は深く息を吸って、
「さ、桜フェス、頑張るぞ~!」
「「「おー!!!」」」
なんか漫画みたいな青春してるなって思う。いや、実際に最高の青春をしてるんだけど。
手も足も震えて、心臓が止まってしまうんじゃないかってぐらいバクバクしている。
でも、これが夢への第一歩だ。そして頼りになる二人が、目標としてるあおいさんがいる。
満天の星空の下。舞台はすでに整っていた。
「桜フェスの最後を飾るのは、倉野あおいさん。そして、紺野晴翔さん、新山春哉さん、佐野みくるさんの四人です! それではみなさんの登場です!」
司会の唐突な紹介に、会場全体がざわついた。
あおいさんの他に、高校生が三人も出てくるなんて聞いてないから当たり前だ。
俺たちはそんな空気の中、ステージ上に出る。
「みなさん、桜フェス二日間お疲れさまでした~! 改めまして、倉野あおいです! そして~!」
「初めまして、紺野晴翔です!」
「新山春哉でーす!」
「さ、佐野みくるです!」
みくるが出たとたん、会場内が少し色めきだった。さすがの美形である。思いっきり噛んでたけど。
「えーっと、実はこの三人は僕の知り合いです。そして、皆さんに発表があります。この後僕たちは二曲歌います。一曲は僕ら四人の合同制作曲です」
あおいさんが俺に視線を送って、合図を出した。
俺は声を震わせながらしゃべりだす。
「曲の名前は『過去の音楽』です。あおいさんが昨日歌っていた『夢の音楽』の前のストーリーとして繋がっています。初めて作った曲ですが、作詞作曲、イラスト、動画の全てを俺が作りました。その作る過程で、春哉にはイラストや編集の仕方を、みくるにはギターとピアノを教えてもらいました」
「といっても、ほとんどは晴翔が作ったんですけどね~」
「だよな~」
「「だから、俺らはここまで! あおいさん、晴翔頑張れよ!」」
打ち合わせで用意していた言葉を、春哉とみくるは息ぴったりに言ってステージから降りて行く。
昨日、あおいさんと話した後、俺が作ったこの曲にあおいさんがこの名前を付けてくれた。そして、『夢の音楽』と繋がったストーリーにしてほしいとお願いされた。俺はすぐにオーケーした。憧れの人にそう言ってもらえた初めての曲だ。一生大切にすると思う。そして、あおいさんは続けてこう言ったのだ。今まさにマイクを通して、それがみんなに伝わる。
「というわけで、僕と晴翔くんが桜フェスの最後のステージを盛り上げます。晴翔くんは高校生と思えない歌唱力を持っているので、皆さんお楽しみに。そして——」
あおいさんが一度深呼吸をして、マイクを離してこう言った。
「あの名前の無い曲に、ついに名前がつきました。『過去の音楽』を歌った後に、歌います。きっと皆さんの心の中に残るものになると思います。それではまずは『過去の音楽』から! 晴翔くん、準備オッケー?」
決して大きな声じゃないのに、マイクが無くても綺麗に響くあおいさんの声が、俺の名前を静かに呼んだ。俺は力強くうなずく。
曲のイントロが流れ出す。
たった一分の曲のために、昨日も今日の午前中もギリギリまであおいさんたちと練習した。バンドの皆さんも温かく俺を迎えてくれて、この曲を一緒に練習してくれた。
主旋律を俺が歌い、あおいさんがそれにハモる。ピアノやギターはにぎやかに歌声を彩る。星空の下で響く、静かでゆったりとした、でもたくさんの感情が溢れてきそうなこの歌を、音楽を俺は必死に歌った。誰かに届けたいとか考えてる余裕もなく、ただ必死に歌った。
一分が終わった。たった一分なのに、息は切れていた。
マイクを離して、あおいさんのほうを見る。
あおいさんは楽しく歌えただろうか。俺たちの作ったこの音楽を。
そう思った瞬間、会場全体が大きな拍手で包まれた。ペンライトやうちわなんてない桜フェスだけど、拍手の音が俺の耳に焼き付く。歓声を上げてくれているお客さんの顔が涙でぬれていた。
俺は慌てて頭を下げる。そして「ありがとうございます!」とあおいさんと共に声を出した。そんな俺たちの声に、再び大きな拍手が鳴る。
「ほらね! 晴翔くんの歌唱力すごいでしょ! 将来のっていうか、すでに僕のライバルです! そんなライバルは、僕のあの名前の無い曲の最初のファンなんですよ⁉ 奇跡の出会いって本当にこの世にあるんです。そんな想いと共に僕と晴翔くんで名前の無かった曲の曲名を考えました。この星空の下で、僕らは青くて爽やかな快晴の歌を届けます! それでは聴いてください!」
俺とあおいさんの呼吸が完全に重なった。
あおいさんに決めてほしいと頼まれ、いくつか候補を出して二人で決めたこの曲の名前。
「「僕らの青い音」」
今度はみんなに届けと願いながら、笑顔で歌い始める。
星々が俺らの声に答えるように、一斉に光を強めた。
そんな中俺たち四人はステージ裏で、最後のやり取りをしていた。
「え、まじ⁉ 俺らもいいのか⁉」
「春哉の言うとおりだよ! 晴翔はともかく俺らは絶対出ないほうがいいって!」
春哉とみくるがあわあわするのを、俺とあおいさんは何とか落ち着かせていた。
「俺が出てほしいんだ。二人がいなかったら俺はずっと進めないままだった。さっき聞かせた曲も二人がいたからできたものだ」
俺は必死に頭を下げる。
「僕からもお願い。紹介の時だけでも出てくれないかな……?」
あおいさんも俺の隣でお願いをしてくれる。
二人は照れたような困ったような顔をして、そして、笑った。
「まぁ、普段晴翔に頼ってばっかりだもんな俺たち。はるコンビとして出てやるよ! ただし、紹介の時だけだからな! ほらあおいさんも顔を上げて!」
「俺もあおい兄さんと晴翔のためなら紹介の時出るよ! でも演奏の時は俺たちはいないからな、頑張れよ!」
そう言って二人はこぶしを突き出してきた。俺とあおいさんも二人に合わせてこぶしを突き出した。そして三人とも俺に顔を向ける。その合図に、俺は深く息を吸って、
「さ、桜フェス、頑張るぞ~!」
「「「おー!!!」」」
なんか漫画みたいな青春してるなって思う。いや、実際に最高の青春をしてるんだけど。
手も足も震えて、心臓が止まってしまうんじゃないかってぐらいバクバクしている。
でも、これが夢への第一歩だ。そして頼りになる二人が、目標としてるあおいさんがいる。
満天の星空の下。舞台はすでに整っていた。
「桜フェスの最後を飾るのは、倉野あおいさん。そして、紺野晴翔さん、新山春哉さん、佐野みくるさんの四人です! それではみなさんの登場です!」
司会の唐突な紹介に、会場全体がざわついた。
あおいさんの他に、高校生が三人も出てくるなんて聞いてないから当たり前だ。
俺たちはそんな空気の中、ステージ上に出る。
「みなさん、桜フェス二日間お疲れさまでした~! 改めまして、倉野あおいです! そして~!」
「初めまして、紺野晴翔です!」
「新山春哉でーす!」
「さ、佐野みくるです!」
みくるが出たとたん、会場内が少し色めきだった。さすがの美形である。思いっきり噛んでたけど。
「えーっと、実はこの三人は僕の知り合いです。そして、皆さんに発表があります。この後僕たちは二曲歌います。一曲は僕ら四人の合同制作曲です」
あおいさんが俺に視線を送って、合図を出した。
俺は声を震わせながらしゃべりだす。
「曲の名前は『過去の音楽』です。あおいさんが昨日歌っていた『夢の音楽』の前のストーリーとして繋がっています。初めて作った曲ですが、作詞作曲、イラスト、動画の全てを俺が作りました。その作る過程で、春哉にはイラストや編集の仕方を、みくるにはギターとピアノを教えてもらいました」
「といっても、ほとんどは晴翔が作ったんですけどね~」
「だよな~」
「「だから、俺らはここまで! あおいさん、晴翔頑張れよ!」」
打ち合わせで用意していた言葉を、春哉とみくるは息ぴったりに言ってステージから降りて行く。
昨日、あおいさんと話した後、俺が作ったこの曲にあおいさんがこの名前を付けてくれた。そして、『夢の音楽』と繋がったストーリーにしてほしいとお願いされた。俺はすぐにオーケーした。憧れの人にそう言ってもらえた初めての曲だ。一生大切にすると思う。そして、あおいさんは続けてこう言ったのだ。今まさにマイクを通して、それがみんなに伝わる。
「というわけで、僕と晴翔くんが桜フェスの最後のステージを盛り上げます。晴翔くんは高校生と思えない歌唱力を持っているので、皆さんお楽しみに。そして——」
あおいさんが一度深呼吸をして、マイクを離してこう言った。
「あの名前の無い曲に、ついに名前がつきました。『過去の音楽』を歌った後に、歌います。きっと皆さんの心の中に残るものになると思います。それではまずは『過去の音楽』から! 晴翔くん、準備オッケー?」
決して大きな声じゃないのに、マイクが無くても綺麗に響くあおいさんの声が、俺の名前を静かに呼んだ。俺は力強くうなずく。
曲のイントロが流れ出す。
たった一分の曲のために、昨日も今日の午前中もギリギリまであおいさんたちと練習した。バンドの皆さんも温かく俺を迎えてくれて、この曲を一緒に練習してくれた。
主旋律を俺が歌い、あおいさんがそれにハモる。ピアノやギターはにぎやかに歌声を彩る。星空の下で響く、静かでゆったりとした、でもたくさんの感情が溢れてきそうなこの歌を、音楽を俺は必死に歌った。誰かに届けたいとか考えてる余裕もなく、ただ必死に歌った。
一分が終わった。たった一分なのに、息は切れていた。
マイクを離して、あおいさんのほうを見る。
あおいさんは楽しく歌えただろうか。俺たちの作ったこの音楽を。
そう思った瞬間、会場全体が大きな拍手で包まれた。ペンライトやうちわなんてない桜フェスだけど、拍手の音が俺の耳に焼き付く。歓声を上げてくれているお客さんの顔が涙でぬれていた。
俺は慌てて頭を下げる。そして「ありがとうございます!」とあおいさんと共に声を出した。そんな俺たちの声に、再び大きな拍手が鳴る。
「ほらね! 晴翔くんの歌唱力すごいでしょ! 将来のっていうか、すでに僕のライバルです! そんなライバルは、僕のあの名前の無い曲の最初のファンなんですよ⁉ 奇跡の出会いって本当にこの世にあるんです。そんな想いと共に僕と晴翔くんで名前の無かった曲の曲名を考えました。この星空の下で、僕らは青くて爽やかな快晴の歌を届けます! それでは聴いてください!」
俺とあおいさんの呼吸が完全に重なった。
あおいさんに決めてほしいと頼まれ、いくつか候補を出して二人で決めたこの曲の名前。
「「僕らの青い音」」
今度はみんなに届けと願いながら、笑顔で歌い始める。
星々が俺らの声に答えるように、一斉に光を強めた。