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「宮田、この前注意したことがちゃんと改善されてるじゃないか」

 練習中、レギュラー入りした他の二年を褒める監督。その声に俺の手が止まり、視線はそちらへと逸れる。

「お前は飲み込みが早いからな。ミスもどこが悪かったかしっかりと考えてすぐに改善される。それは宮田のいいところだ」

 ボールを強く握りしめて、ありがとうございます、と宮田は嬉しそうに笑った。

 そして「その調子で頑張れよ」と肩を軽く叩いた監督に「はいっ!」強く返事をすると、また練習を再開させる。

 監督は、他の生徒を見ては声をかける。

「おー、瀬戸。調子はどうだ?」

 今度は瀬戸だった。

 完全に俺の意識は、目の前のゴールではなく〝彼〟へと移っていた。

「はいっ、だいぶよくなりました」

 監督は、そうかそうか、と頷いて安堵した様子だった。

 一年の頃にレギュラーに選ばれた瀬戸。

 その実力は、監督のお墨付きだ。

「じゃー、スリーポイント決めてみろ」

 監督の提案に、はい、と頷くと、ゴールに向かって集中して。呼吸を整えたあと、ボールを投げた。しなやかに伸びる腕、柔らかそうに持ち上がるボール。

 そして、そのボールは綺麗に弧を描いて、ゴールに入った。

 ──そうなることが当然で、その道しか知らないように、ボールは綺麗な曲線を描く。

「おお、さすがだな」

 俺なんかより数倍もうまくて、非の打ち所がなく完璧で、改善するところなんかなくて、監督お墨付きで。シュートするフォームでさえ綺麗で。

 それに引き換え俺は、平凡でたいしてシュートもうまくなければ改善するところなんか大ありで、どんなに努力したって宮田や瀬戸には追いつけない。

 それなのになぜ俺がレギュラーに選ばれたのか、不思議だった。

 俺を選ぶメリットよりもデメリットしかなくて。

 レギュラーに選ばれて嬉しい。心の底から嬉しくて、クラスメイトに応援されて向上心がさらに上がる。が、〝疑問〟へ目を向けると、嬉しさよりも戸惑いの方が上回った。

 ──なぜ監督は俺を選んだのだろうかと。

 そもそもなぜ俺で、瀬戸じゃなかったのか。